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第二一話 役目の終わり

(なんというか、最近はだいぶここも落ち着いたな)


 大樹の根元に住んでいる人々……今では普通の人から大きく変わったので、近しい存在だからエルフと呼ぼうと思うが、彼等エルフも現在はとても安定した生活となっている。

 この土地に最初に来た時、そのあと人間が来て追われた時、妖精達といっしょに取り返した時。その後も森の外の人間がこの場所を求めて攻め込んできたこともあったが、今は外も情勢的に安定したのか、それとも戦う余裕がなくなったのか、理由は不明だがこの場所まで来なくなっている。

 そういった攻める意図とは別の目的で来る者もいて、そういった者たちは協力を求め、交渉や物々交換みたいな感じをすることがある。それも今では定期的なやりとり、取引体制ができたのか大きな問題でも起きない限りは焦る事態ではない。まあ、小さい問題はいくらかあるようだが。

 妖精たちも今では前の状態とは違って安定した様だ。この大樹が妖精が集まるのにいい環境だと他の場所の妖精に知られたからか、他所からここに来る妖精は多い。もっともあまりここに来すぎると他所とのバランスの問題があると思うので、大樹側から妖精を送り出したりもしているようだ。特に成長した大人の妖精は外へと出ていくことが多い。

 なんというか、全体的に落ち着くところに落ち着いたと言うか、情勢的にかなり安定したと言うか、そういう感じで今を過ごしている。


(……退屈、なんだけど。まあ平和なのが一番とは言うが)


 現在の状態では自分のやることはない。毎日果実を落としたり、エルフや妖精たちの生活を見守ったりはしているが、それ以上のことができるわけではない。突き詰めるだけ突き詰めてもうやることのなくなった育成ゲームとかをただ見ているだけな気分だ。まあ、本当の意味で何も起きないと言うわけではない。彼等もまだ発展途上、魔法が生まれた時のように新たな技術的発展が進み大きな出来事が起きる可能性はある。それに安定したとはいえ、人気な何を起こすかはわからない。だからまた何か大変な事態になるかもしれない。起きない方が、本当はいいのだけど。

 そんなことを、そんな何かが起きる未来を考えながらのんびり生きている。しかしそれはやはり暇で退屈な生き方である。やることもなくすることもなくできることもなく、ただ見守るだけの樹生を送る。面白みが少ない。


(しっかし……最近時々意識が途切れると言うか、眠いと言うか)


 昔からこの樹の体で眠る必要性はなかった。だからこそ余計に退屈しのぎが必要だったのだが。今ではなぜか不意に意識が途切れて気が付いたら結構な時間が過ぎている、と言うことがあった。睡眠に近い感覚だが、そもそも樹は眠る必要性がないはず。ならばいったい何だと言うのだろう。

 まあ、そもそもこの樹の体そのものに謎が多い。だから突然睡眠が必要になったと言われてもおかしくはないのだが、原因もわからずいきなり起きるとちょっと怖い。


(でも……まあ、いいかな…………ちょっとあれだけど)


 もしかしたら、これが死の予兆なのではないかと思うこともある。そうだというならそれは寿命といて受け入れるしかないだろう。そもそもなぜ自分はこの樹の体でここにいるのかもわからない。いきなり樹として生活することになり、ずっと状況を見守りながら果実を落としてきただけ。確か自分は人間だったはずだが、いつのまにか樹として何百年も生活している。

 もう満足できるほどに長生きしたと言ってもいいだろう。樹として、ただ見守るだけだったとはいえ、現実ではありえないファンタジーな世界を体験でき、この場所に来た人や妖精のために力を費やせた。本当は人間としてこの世界に触れてみたいと思う所もあるけれど。でも人間だったらすぐに死んで終わっていたかもしれない。ここまで生きていられたのはこの大樹だったからこそでもある。


(んー……ああ、意外と楽しかったのかな。はっきり満足した、とは言いづらい感じはあるけど……だからいつ死んでも、いつ終わっても、いいのかな)


 十分自分のやるべきことはやった。そんな感じではある。だからもう、自分、この大樹の意思として存在する自分がいなくなったところで世界はちゃんと動いていく。この大樹の側にいる彼らもちゃんとやっていけるだろう。信仰的には不安もありそうだけど。


(………………)


 意識が薄れる。眠りか、消失か。自分と言う存在がどこかに行く感じがする。今度こそ、終わりの時なのだろうか。それともまた眠りに近いものなのか。わからないが、意識は消えていき、何も考えられなくなっていった。















 大樹の枝に住んでいるある妖精……今では既に精霊となった、この大樹に一番最初のころから住んでいる風の精霊。その彼女は大樹に最初からいたと言う年季があり、若く最も早く精霊に成長した存在であり、この場所を取り返した時に妖精や精霊たちをまとめた者である。それゆえに彼女は妖精や精霊たちのリーダー、まとめ役、旗頭、大樹信仰の教主のような立場を担っている。もちろん彼女が主導したわけではないが、そんな風になってしまっていた。

 そんな立場であるためか、誰が読んだか精霊姫と呼ばれることもある。妖精や精霊は自分で名前を付けることはほぼなく、契約などを行った時人間と話し名前を持つことが多い。多くの場合、ほとんどは妖精、精霊としか呼ばれず、精霊姫と呼ばれることになった彼女はある種別格ともいえる存在であるだろう。

 また、彼女が別格なのはもう一つ理由がある。この大樹に妖精たちの生活スペースが大樹の洞と言う形で作られているが、その生活スペースは多くが住まうことを前提としている者である。しかし、彼女の住む場所は以前彼女が過ごしていた樹の洞から変わっておらず、その部屋は彼女専用の部屋、他の妖精や精霊を住まわせる余裕のない一人だけの部屋となっている。大樹による特別扱いともいえるものを受ける存在であることがまた別格な理由の一つだろう。


 そんな彼女だけが住まう個人の部屋に風の精霊姫はあちこち巡った後に戻る。戻ってくると彼女は樹の洞の内部の様子がいつもと違うことに気づく。何が起きたのか部屋の中を見回すと、壁に以前下から昇ってきたときのような階段ができていることに気づく。

 何故今更こんなものがでてきたのか。彼女は不思議に思う。だけど大樹のやることである以上何か意味があるのだと彼女は考える。自分の部屋に階段を出現させている以上自分だけを呼び寄せたいのではないかとも。

 階段に近づいて確認し、最初に感じたことはこれが前に彼女が昇ってきた階段とは別の物であると言うことがわかる。以前とは違い真っ直ぐ地下へと進む形になっていた。角度、方向から恐らくは樹の中心へと向かっているような階段であるようだ。

 その階段を彼女は下りることにした。大樹が自分たちに危害を加えることはないと思うが、彼女は慎重に階段を下りていく。そうして階段を下りきった先には、樹の洞の中だというのに光があって明るい場所に出る。大樹なのでそういう所があってもおかしくはないだろう、と今更なことを彼女は思う。大樹が発光能力を持っていたところで変な話ではない。

 まあ、そういうことを考えても意味はない。問題はその場所が何なのかである。その場所には大きな水場、円状の水場と、その傍らに茎が短いが太く、とても大きな花のつぼみがあった。その花のつぼみは人が一人入ってもおかしくはないほど大きい。いや、周りの光のおかげで薄っすらとみえるのだが、中に人の形をした何かが入っている。それを見て一体何だろうと彼女は思った。

 そしてその花は彼女の見ている前で開こうとしていた。

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