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第十三話 大樹とその根元の人々

 その日、大樹の根元に住んでいる人々は異変を察知する。

 彼らの大樹への信仰、信心はここに来た時の出来事がきっかけではあるが、心からの物である。大樹に積極的に近づくことはしないが、大樹の様子は何時も観察されており、果実が落とされることも知っている。それが最近はなかったこと、そして本日果実が落とされたこと……それも、ほぼ一定の場所へと向けて落とされたこと。それを察知した。

 それ以前の果実が落とされないことも異変として察知していたのだが、どう対応すればいいかと言う話になる。彼らにとって大樹は神であり、その神のすることであれば何か意味はある、メッセージ性はあると考えられるのだが、しかし何もしないということは彼らにとって何かを知ることはできないことである。坑道に意味はあってもその意味を理解できない。だが今回は果実を落とすと言う明確な行為により、そこに何かがあるのかもと思うことができるようになったわけである。

 なぜ大樹はそんなことをするのか、そこに何があるのか。わざわざ果実を一か所に落とす事で神は一体何を示しているのか。謎は多いが、大樹の根元に住まう人々は情報を収集する必要があると考えた。そもそも大樹が果実を落とさなかったのは大樹が何かを察知していたから、今回果実が落とされたのはその察知したものを我々に伝えたいからでは? かなりの希望的観測があるが、彼らはそう考えたのである。実際その通りなので何ら問題はないわけだが。


 そう考えた結果、彼らは森へ狩人たちを送り出す。戦士としても戦える、森での戦闘経験を積んだ熟練の狩人たち。その人物たちが果実の落ちた場所、その方角へと向かっていく。

 彼らにとって森は通いなれた場所だ。木々が鬱蒼と茂り、足元を結構な草が生え、獣や虫も多種多様に住んでいる森の中は本来移動が大変なはずなのに彼らは軽やかに抜けていく。そしてあっさりと果実の落ちた場所を発見する。果実の残骸が残っているので、おおよその場所さえわかっていればすぐに到達できる。そして彼らはその場所で森を切り開く人間達の姿を発見する。

 彼等の信仰対象は大樹である。しかし、大樹だけが信仰対象であるかというと少し違っており、森も彼らにとっては大切な存在、信仰対象に近い存在である。正確に言えば、彼らにとって森は大樹の作った大いなる恵みであり、守るべきものであると考えている。

 大樹が果実を落とす事を知っており、その果実から草木が生えることも彼らは経験として知っているのだ。そもそもこの大地の昔の姿、荒涼の大地であった、死の大地で会ったこの場所のことを知っていればこの森がなぜ生まれたのかはすぐにわかるだろう。大樹が落とした果実の力によってである。つまり森は大樹の作ったものである。まさに神の所業と言ってもいいだろう。だからこそ彼らも尚更信仰が深くなるわけである。

 さて、大樹が森を作ったと言うことは、その森を乱暴に切り拓く勝手で横暴な所業は大樹に対する敵対行為に等しいと彼らは考えるだろう。彼等の昔を思えば彼らも勝手に侵入し、森を切り開き果実や野菜などを奪い、獣を狩っていったわけだが、それでも森を傷つけるようなことはしていない。森と大樹の関係を知ってからは森を守るべくして行動するようになっている。

 まあ、大樹も彼らの行動に然程干渉する気はないだろう。せいぜいやりすぎた場合森の再生を行うくらいで、彼らを無理に追い出そうともしない。あまりにひどすぎる場合は考えるかもしれないが。彼らがそれを理解しているかはわからないが、今森を切り開いている外からの侵略者は彼等とは違う。大樹が果実を落とし、わざわざその存在を伝えてきたのである。つまり何らかの問題があると言うことになる。

 侵略者である森を破壊する存在に彼らは憤りを感じる者の、軽慮な行動はとらなかった。数も装備も全然違い、相打ちになることすらできるかわからないくらいの戦力さ。自分たちが戻らなければまた代わりの者が来るか、その者たちはどう行動するか、そもそもここまで無事来られるか。そういった物事を考え、彼らは手を出さずに戻り報告することにした。


 森の外に近づいた狩人たちの話を聞き、村にいる人々の意見は荒れた。大樹に対する信心の高いものは彼等を排除することを唱える。冷静なものは話し合いで解決できないか、と意見した。しかし、この中でも過去のことを覚えている人間達、世代交代しながらもまだ人間と言う存在に追われた出来事を覚えている、人間と言う存在の脅威を知っている年寄りたちの意見が重視された。彼らは当時の戦火の状況とその内実を知っている。

 彼らの話は外にいる人間達に勝つにはまともに戦っては無理だろうと言うことだ。まず装備が全然違ってくる。金属製の武器と防具、そして人の数もこの村にいる人間全員よりも兵士の数が多いだろうと言う話。当時の戦火で何が起きたか、どうなったか。それを訊けば安易に彼らと話し合いもできないし、単純に戦いに持ち込むことも難しい。心持だけでどうにかなるものではなかった。

 話し合いをする最中、一部の人間は武器に手を伸ばしてすぐにでも森の外側にいる人間たちの下に向かおうとする。話し合いをして決めるよりも殺して終わらせる方が速いと考えたのか。その理由はわからない。しかし、彼らはその行動を止められた。果実によって。

 その日の最後の果実が彼らの下に落とされた。その落とされた場所は武器を持った村人たちの側。それを見た彼らは、大樹が自分たちの愚行を止めたと考えた。戦うな、そう言っているのであると。


 彼らは大樹の意見を尊重する。では話し合いになるかというと、ならない。侵略者は話し合いを聞いてくれるような相手ではない。自分たちは対等な武力を持っているわけではない。ゆえに、侵略者は自分たちを滅ぼしてこの場所を奪うだろうと、彼らは考えた。

 ではどうするべきか? 大樹は自分たちを止めた。神はこう言っている。ここで死ぬべきではないと。ではどうするか? この場所から逃げるしかない。その意見にはいろいろと待ったの声がかかったが、しかし後に残る手段は対抗するか、話し合うか。結局大樹の言う通り生きるためには逃げるしかない。

 彼らにとっても苦渋の判断である。彼らは住む場所を追われてこの場所に逃げてきた。ここから追い出されればどこに向かえばいいのかわからない。しかし、彼らは逃げる。大樹を信仰するがゆえに、大樹の指示に従うのである。

 彼らは侵略者たちがこの場所に到達する前に、逃げるための準備を始めた。











(よかった、逃げてくれるか。まあ、こちらでそう誘導した感じではあるけど)


 うまくいくとは限らなかった。もしかしたらこちらの誘導をうまく感じてくれず、そのまま全員で侵略してくる人間たちに突っ込んでいった可能性もある。そうなったらどうしよもなかった。まあ、最初からどうなるかはわからなかったからいろいろとハラハラしたけど。そう考えると、彼らが理性的に冷静に書投げてくれたのはありがたかった。

 しかし、彼らもここに住処を作ったわけだけど、逃げるとして……どこに逃げるのだろう。この森は色々と食料豊富、資源が豊富だが、森から出て生きられるかと言うと分からないとしか言えない。まあ、こちらとしては逃げるように誘導したわけで。かなり無責任な話だ。まあ、彼らがこっちの目の届く範囲にいる限りは幾らか気にすることにしよう。問題は侵略者側の人間だよな。

 森を切り開き、開拓しながらどんどんとこちらに向かってきている。まあ、この大樹ってすっごく目印としてはわかりやすいものな。目標到達地点に指定しやすいだろう。果実も飛んできて一体何事かと思っているかも知らんし。

 せっかく作った森が切り倒されていくのはなー。こちらとしてもショックな感じはある。なんで切り拓くの? って言うと、そりゃ木々を利用したり、獣が住みにくくなるし、見通しがいい方が安全だからとかいろいろ理由はあるだろう。住む場所も切り倒した機を利用して作れるし。だけどこっちとしてはせっかく作った森が切り拓かれていくのを見るのはなんだかなあ……しかたないんだろうけどさ。

 ひとまず、彼らのことはここまで到達してから考えよう。今は根元にいる人々をどうするか。森を大事にしてくれる人たちの方が優先なのは当然よね。製作者的に。

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