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第一話 大樹になった日

 いつも通り目が覚めた。


(ふあ…………あれ? めっちゃ明るい。まるで外みたいに……って? あれ? 外じゃん!? っていうかここどこだよ!?)


 見回す限り一面の荒涼とした大地。遠くには山も見えるが、緑の欠片もない灰色や茶色の山々。そもそもおかしなことに視界がまともなものではない。なんというか、ゲームなどでおなじみの上方向からの視点に見える。あちらもこちらも荒涼とした荒地、茶色の草木の一つも存在しない大地。しかしその中に一つだけ、ぽつんと…………というほど小さいものではなさそうな、どしんとそびえる一つの物が存在した。


(おおー……このぺんぺん草の一つもないような大地に滅茶苦茶でかい大きな樹があんじゃん。っていうか、あれ? 俺喋れない? ってゆーか動けもしないし。いやいやいや、マジでどうなってんの!?)


 周りを見回す事よりも、まず自分のことを確認するほうが先だった。と言っても言った通り……いや、喋れていないのだから言った通りも何もないのだが。俺自身は喋ったつもりでも、声が出ていない。そもそも音も聞こえていない。いや音が聞こえないのに声が出ていないのがなぜ確認できるのだろう。口が動かない。目…………は、何故か視界を動かせるようだ。ただ上方視点からの全体マップとは別に新たにどこかに視界を発生させている感じ、それをこう、ドローンとかラジコンとかみたいな感じで動かして、だ。五感のうち、嗅覚と味覚と聴覚は恐らく存在しない物と思われる。まず何も聞こえないのがはっきりとわかっているから。無音ってなんかヤだな、と思いつつ。視界を動かしてみる。

 結構遠くまで視界が伸びる、と思ったのだがある地点から視界は伸びなくなった。


(んー……ここが限界か。横に……だめだ、動く場合はちょっと後ろにずれる。これはあれか、中心点からいくらかの場所までという円状の範囲しか移動できないアレか)


 つまりはコンパスのような感じだ。コンパスで伸ばせる最大の長さが視界を移動させることのできる距離、コンパスで描いた円の内ならばどこにでも視界を移動させることができる。ただし地下は不可らしい。上空は……一定の高さ以上は無理。まあ上方からの視点が常に定位置からの視点という形で存在しているので高さが伸びなくても安全なのだが。


(えっと、円の中心はーっと……いや、まあ、あれか。そうだよな、あれ以外にないよな。生物とか全く見られないし、草木の一つも存在しない、生きる者がいそうにないこの大地で唯一存在しているあれがそうだと言われれば、そうだとしか言いようがないよなあ……)


 円の中心点。視界の中心、伸ばす起点、すなわちその地点に自分の体がある。そう推測して、円の中心点を調べてみた結果判明した事実。


(俺、大樹になっちゃった)


 俺の体はこの荒涼とした大地にただ一つ存在する大樹であるらしい。






(まてまてまてまてまて!? どうしてこうなった!? もともとの俺の体はどうした!? っていうか俺は一体どうなってるんだマジで!?)


 自分の体を検分する。視界を移動させて……うん、見紛うこともない立派な大樹だ。違う、そうじゃない。確かに樹ならば口がないとか、触覚がないとか、聴覚がないとか、そういうのもわからなくもない。まあ本当に味覚がないか、触覚聴覚がないかとかそんなことは知らないが、もともと人間の感覚器を使っていた俺が樹になったせいで感覚器の齟齬で感覚を理解できていないだけなのかもしれないとか、考えられることは色々ある。まあそもそも視界を動かせたり全体マップの視界を持っていたりする時点で異常なのだから気にする必要もない。まず気にする点はそこではないのだから。


(確か昨日は普通に寝た……よな? あれ? 昨日のことがよく思い出せん。いや、昨日だけじゃなくてもっと前のことも、ずっと前のことも……あれ? つまりいわゆる記憶喪失になってるのか?)


 いや、微妙に違う感じだ。知識と記憶は違う、とはよく言われるが、それともまた違う感じだ。普通記憶が失われればそれまでの自分と大きく違ってくることも珍しくないはず。まあそれでも変わらない部分も多いだろうけど、そういった影響があってもおかしくないはず。だけど少なくとも自覚する限りではそんなところはない。まあ記憶喪失の人間の自覚なんてあてにはならないんだが。


(記憶喪失…………漫画とか、アニメとか、ゲームとかならよくあるシチュエーションなのかもしれないが、まさか自分がなるとは露ほども思わないだろう。そもそも記憶喪失以前に自分の体がいつの間にか樹になってたとか……いや、虫になっていたお話はあるだろうけどさあ。そもそもどうしてこうなった? いや、それを知りたいから思い出そうとして記憶がないことに気づいたんだよな……)


 もはやわけがわからない。仮に、これは転生なのだとするとタイミングが違う。体が入れ替わっているので転移の類でもないだろう。では、一番可能性はあるとすると憑依となるのだが。それにしても樹、というのはどうなのだろう。人外キャラに憑依するケースは二次創作には珍しくもなかったと思うが、それにしても樹とはこれいかに。


(まあ、細かいことを考えても仕方がないか……あれこれ考えたところで現状どうにかなるわけでもない。過去を考えるよりもこれからどうするかを考えたほうがはるかに有用だ)


 うだうだ悩んで考えたところで現実が変わるわけではない。であれば、少しは前向きに進むしかない。


(前向きに…………進みたいんだけどなあ)


 問題はただ一つ。自分の体が全く動きそうにないことと、この場所がどういう場所であるのか全く不明な所である。特に体が動かないのは本当にどうしようもない。まあ、動かないから動物ではなく植物なのだろうし……いや、植物で動くものも多種多様に存在するんだけどさ。

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