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偽りのかなしきみ  作者: 睡蓮 朱華
約束事は熟考してから
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約束事は熟考してから 6 〜過去編〜

 聞き耳を立てようとするが、距離があるせいか途切れ途切れにしか聞こえない。

 未だに目を開けない蒼をそこに置いていくのは不安だったが、私にできることは何もないと言い聞かせてその場を離れる。何より、ここに送り込まれたそもそもの目的は真実を見ることなのだ。



「どうして泣いているんですか」



 聞き覚えのある声に眉をひそめる。私の姿が見えないのが分かっていつつ、こそこそと木の陰から覗くとあの黒狐が幼い私と会話をしているのが見えた。

 こちらの世界に合わせているのだろうか。尻尾も耳もないけれど、それでもあの黒狐だとはっきり分かった。あれほどの美貌を持った男が、世の中にそう何人もいるはずがない。

 いつか出てくるのだろうとは思っていたけれど、このタイミングでの登場だったとは。



「どうして、泣いているんですか?」

「蒼が、蒼が蛇に噛まれちゃったの。もしかしたら、死んじゃうかもしれない……」



 泣きじゃくったまま答えない私に、黒狐が同じ質問を繰り返す。

 先ほどよりもほんの少しだけ柔らかい言い方になったことで落ち着いたのか、幼い私は泣きながらも黒狐の問いかけに答えを返す。それを聞いた黒狐は心底不思議そうな顔をした。



「そうなんですね。それなのになぜ、あなたが泣いているんですか?」

「え……?」

「噛まれたのも痛いのも死にそうなのも、貴方ではないでしょう。他人のことでどうしてそこまで……」

「だって、蒼は私の大切な人だから。大切な人が傷ついたら、自分だって悲しくなるでしょう?」



 そう聞き返す私の言葉を、黒狐は興味深そうに聞いている。

 幼い私の言う言葉が、本当に理解できないようだ。黒狐には大切な人はいないのだろうか。否、そもそも妖には誰かを大切だと感じる心すら無いのかも知れない。



所詮しょせんは他人のことなのに、そこまで感情移入できるんですね。私には理解できません」

「……お兄さんは、かわいそうな人なのね」



 少しの沈黙の後に落とされた私の言葉に、黒狐が目を見開く。まさか人間の子供に『かわいそうな人』扱いされるとは思ってもいなかったのだろう。

 その少し間の抜けた表情の黒狐を正直、少しだけ。ほんの少しだけ『可愛い』と思ってしまった。



「あなたは、その人が助からないと悲しくなるんですか」



 何を思ったのかされたその質問に、私は返事の代わりに目を潤ませた。

 それを見て、黒狐が慌てて言葉をつなぐ。大声を出されては困ると思ったのだろうか。

「他人の痛みがわからない」と平然と言えるようなやつなのだ。小さい子を泣かせたら良心が痛むなどという理由でないことは確かだろう。



「助けられますよ。ただし条件付きですが」

「本当!? 私何でもする、お願い、蒼を助けて……!」

「もしあなたが大人になった時、私のことをかわいそうな人ではなくしてくれたら。私の大切な人になってくれるのなら、その人を助けましょう」

「大切な人になるの? どうやって?」

「そうですね、手っ取り早いのは家族になることでしょうか」



 そう言って余裕たっぷりに微笑む黒狐を見て、固まる私。それが正しい反応だろう。いきなり「家族になれ」と言われて「はい、なります」などと言う人はいない。



「家族になんてなれないよ、だってお兄さんは私と一緒のお母さんから生まれたわけじゃないもん」



 当たり前のことながら、幼い私はその言葉を否定する。

「一緒のお母さんから生まれたわけではない」と言われた時に、黒狐が心なしか顔をゆがめたように見えたのは気のせいだろう。

 その直後に発せられた言葉の衝撃に比べれば、取るに足らないことだ。



「なれますよ、私と結婚すればいいんです」

「結婚って、私がお嫁さんになるの?」

「そうですよ。結婚して私のお嫁さんになって、ずっと幸せに一緒に暮らすんです」



 薄い笑みを浮かべたまま告げられたその言葉を聞いた瞬間に、背筋が寒くなる。

 だって読めるもの、この後の展開が。どうしてあの黒狐が私と婚約したなんて馬鹿げたことを言っているのかも、このあと私がなんと答えるのかも。



「……いいよ」

「本当に、いいんですか? もうお母さんにも蒼君にも会えないかもしれないんですよ?」



 悪い予感ほどよく当たるものだ。

 私が了承した時点でトントン拍子に話が進んでいくのだろうと思い絶望する。しかし、それとは逆に自分の言い出したことを否定して欲しいかのように、さとすように黒狐が問いかけているのが聞こえた。



「うん、いいの。お嫁さんになってもお兄さんがそばにいてくれるんでしょう? でも、今蒼がそばにいてくれなくなったら寂しくて死んじゃうもん」



 私は強い意志を感じさせる目でそう言い、「早く早く」と黒狐を急かした。



「分かりました。では、十七歳の誕生日にあなたを迎えに行きます。その時までをうれいなく過ごせるよう、この記憶は私が預かっておきますよ」



 そう言って、黒狐が山の奥に消えていく。完全に姿が見えなくなったと同時に、幼い私が喜びの声をあげるのが聞こえた。

 そして来た時と同じように激しい眠気が私を襲い、そこで意識を失った。






遅くなってしまい、本当に本当に申し訳ありませんでした。

あの後、胃腸炎に罹り入院、やっと退院できたと思ったらパソコンが水没する……。と、トラブル続きになってしまい。

なかなか打ち込む時間が取れませんでした。楽しみにしていてくれた方がいらっしゃいましたら、本当に謝っても謝りきれません。すみませんでした。



今回で、過去編はひとまずおしまいです。楽しんでいただけたでしょうか。

久々すぎて文がおかしくなっているかもしれません、お気付きの点等ございましたら教えていただけると幸いです。

次回は割と大きく物語が動くと思います。また、レギュラー陣も続々と登場していく予定です。

よろしくお願いします。




そして、私が顔を出していない間にポイントが増えていました。評価をしてくださった方、ありがとうございました。

それを励みに、次回も書いていこうと思います。

最後になりましたが、今回も読んでいただき、また、十一月からこの物語を読んでいただき本当にありがとうございました!

皆さん、良いお年をお迎え下さい。来年も、この物語をよろしくお願いします!

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