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偽りのかなしきみ  作者: 睡蓮 朱華
約束事は熟考してから
5/13

約束事は熟考してから 5 〜過去編〜

「梓ー! どこ行っちゃったのー?」



 まだたどたどしい喋り方の、小さな男の子の声が聞こえる。

 私は空でも飛んでいるのか、霧のかかった森林公園(しんりんこうえん)を見下ろしていた。

 そしてそれよりも異常なのは、森の木にも空にもモノクロ写真のように色がない事だった。風はそよぎ、鳥のさえずりも聞こえてくる。なのに、色だけが全くないのだ。

え、何、もしかして私あの黒狐(こくこ)に殺されちゃった?



「これは私の記憶ですよ」



 最悪の事態を想像していると、唐突に頭の中に黒狐の声が響いた。その後長々とされた説明をまとめると、『ここはあの黒狐の記憶の中で、今の私はその時代に存在しなかったため、幽霊のようになっている』らしい。

 それを聞いて、一先(ひとま)ず安心する。決して状況が好転した訳では無いけれど、死んでいなかっただけでも儲けものだ。



「では、ごゆっくり真実を見てきて下さい。私はこちらで待っていますので」



 その言葉を最後に、ぷつりと黒狐の声は聞こえなくなった。勝手に連れてきておいて、「ゆっくり」などと言われ腹が立つがどうしようもない。

 とにかく、言われた通りに「真実」とやらを見るしかなさそうだ。しかし、何を見ればいいのか。



「梓ー! どこー?」



 どうしたものかと悩んでいる所に、再び男の子の声が聞こえた。だが、霧が濃くどこにいるのかまでは分からない。

せめて、もう少し森に近づければいいのだけれど……。

 そう思っても、移動の方法が不明で動くに動けない。空中に浮いているため足を動かしても意味が無いようだし、仮に地面に居たとしても、実体がないためやはり意味がなかっただろう。

 そんな事を考えながら一人悶々としていると、不意に体が何かに引っ張られるように動いた。どうやら、手足を動かさずとも、行きたい方向を思い浮かべるだけでそちらに移動できるようだ。

 案外慣れると面白い。自由に空を飛ぶと言うのは、誰しも1度は憧れた事だろう。

 出来る事ならしばらく空を飛ぶ感覚を楽しんでいたかったが、今は一刻も早く真実を見て戻らなくてはならない。

 そう考えて下へと念じると、スムーズに体が下に動く。顔に当たる風を心地良いと思う間もなく下につき、ザアっとミルクのような濃霧が晴れて行った。そして、先程から叫んでいた男の子の顔が見える。直後、その顔に見慣れた面影(おもかげ)がある事に驚いた。

え、この子、蒼?  何で……。

 霧がなくなってはっきりと見えたその子の顔は、幼くなってはいたけれど確かに蒼だった。黒狐の言う「本当の過去」には、蒼も関係しているのだろうか。

 そうこうしている間にも、蒼は不安げな顔をして私の名前を呼びながら、森の中を歩いていく。その上をフワフワと漂いながら辺りを見回すと、その場所が昔よく遊んだ家の近くの森林公園だと言うことが分かった。田舎だった私の町では、森とちょっとした遊具だけでも十分な遊び場になったものだ。懐かしい思い出に目を細めていると、一際大きな木の影から女の子がそぉっと顔を覗かせた。気づかずに通り過ぎていく蒼を見て、実に楽しそうに笑っている。

「あの子性格悪いわね」と言いかけたところで、その顔がかつて見飽きるほど見てきた自分の顔だと言うことに気が付きショックを受ける。その現実から目を背けるように視線を戻すと、蒼の後ろの茂みが不自然に揺れている事に気がついた。

 嫌な予感がして目を凝らすと、1メートルはある白い蛇が忍び寄っているのが見えた。それは意思でもあるかのように、真っ直ぐに蒼に向かって進んで行く。


「蒼、危ないっ!  気づいて!」


 反射的に声をあげるが、当然その声は届かない。

 しかし隠れている私もそれに気がついたのか、木の影から飛び出すと顔色を変えて叫び声をあげた。


「蒼! 後ろ……!」

「梓そこにいたの? どうしたの、そんなに慌てて……。わぁっ!」


 私の声に気づいた蒼が振り向くと同時に、蛇が伸び上がった。大きく口を開けて、細い足に噛み付く。噛まれた方の足から、ゆっくりゆっくり血が垂れていくのが見えた。それと連動するように蒼の体も傾いていく。そして血が地面についた瞬間——蒼の体が崩れ落ちた。


「蒼っ!」


 私と幼い私の発した悲鳴が重なった。

 どうしたらいいのか分からないのだろう。オドオドと涙を浮かべるだけの私を尻目に、全速力で蒼の元に駆けつける。抱き起こそうとするが、手がすり抜けてしまい触れない。無力な自分に苛立ち、涙が出そうになる。これが過去の出来事と言うことが、酷くもどかしかった。

何とか涙をこらえて辺りを見回しても、私の姿はまだない。大人を呼びに行ったのか、未だに動けずにいるのか……。

 草むらに倒れたままピクリとも動かない蒼を見て、酷く嫌な考えが脳裏(のうり)をよぎった。

 もしかしたら、蒼はこのまま助からないのではないか——そんな事はない、17歳の今も一緒にいるのだから。

 まるで、2人の私が交互に話しかけてくるように考えが変わっていく。

 その時、私の耳に幼い私と『誰か』の声が聞こえてきた。






遅くなって本当にすみません。

ここに顔は出して、ちょっとずつ書いてたんですけど………。

やっとテストが終わったので、またこれに専念しようと思います。



今回も、読んでいただきありがとうございました。




追記

知らない間にポイントが増えてました!

入れてくれた方、ありがとうございます。

凄く励みになりました!

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