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偽りのかなしきみ  作者: 睡蓮 朱華
約束事は熟考してから
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約束事は熟考してから 2

今回の話は、某漫画の名前を少し変えてあったり、全くエロくはありませんが、男女の営みの話が一行だけ出てきます。


苦手な方、本当に申し訳ありません。

そこだけ飛ばしていただいても差し支えないので、ダメでしたら飛ばしてください。

 チャカチャカと陽気な音が鳴っている。


「起きた、もう、起きたってば」


 耳障(みみざわ)りなその音に少しイライラとしながら、手探りで不協和音の発生源である携帯に手を伸ばす。

 当然布団に潜ったままではなかなか見つからず、手当り次第にバンバンとサイドテーブルを叩いていると、吸い寄せられるかのように携帯が手元に来た。

 まあ、実際は吸い寄せられたわけではないのだけれど。

 因みに、この家の中に生身の人間は私以外いない。いるのは、「人ならざるもの」だけ。有り体に言えば、(あやかし)だ。

 今私に携帯を取ってくれたのは、豆狸(まめだぬき)のぽん太。昔学校の裏山で行き倒れていたのを拾ってきて、また放り出す訳にもいかずそのまま一緒に暮らしているのだ。

 妖達の主な食べ物は、人間が抱く恐怖心や猜疑心(さいぎしん)。もちろん私達の食べているような物も食べられないわけではないけれど、そう言う物の方がずっとエネルギーになる。

 しかし、暗闇への恐怖が薄くなったこの世界は妖達にとって住みにくいらしく、あまりにもお腹が空くと人間を直接食べてしまう。

 そんな時に狙われやすいのは、妖が「()える」類いの人間だ。妖が視えず、そんなものいないと思っている人よりも、妖がいるのを知っている人間の方がずっと恐怖心が強いから。

 私も何度も食べられそうになって、その度にぽん太に助けられている。

 その時のことを思い出しながら、「ありがとね、ぽん太」と言ってフワフワとした茶色の毛を撫でた。



「梓、今日は蒼と『でーと』じゃなかったのでしゅ?」



 黙っていれば可愛らしいのに、口を開けばこの有様(ありさま)だ。普段ぽん太は狸の得意技である変化(へんげ)の術を使って、人間の姿で外を出歩いている。そしてこんな風に新しい言葉を覚えてくるのだけれど。



「別にデートじゃないわよ。どこで覚えてくるの、そんな言葉」

「ピンクでキラキラしたホテルがいっぱいある所でしゅ。『でーと』は女の人と男の人が裸になるのでしゅ」

「いや、違うわよ」



 こうして意味や使い方を思いっきり間違えて覚えてくる事が多々ある。その度に訂正してはいるけれど、覚えてくる言葉が多すぎて追いつかないのだ。



「えー、でもあそこの人達そう言ってたでしゅ」

「はいはい、とにかく違うのよ。それより、今何時?」



 目覚まし時計を2時間前にセットしたとは言え、のんびりしていては約束の時間に遅れてしまう。



「もう6時半なのでしゅ」



 話を変えられたことにむっとしつつも、渋々と言った様子で教えてくれるぽん太。お礼の代わりにもう1度頭を撫でて、ベットを降りた。

 昨日の残りの肉じゃがを温めている間に、服を着替える。ぽん太から「手抜きでしゅか?」と言う失礼極まりない発言が聞こえたが、相手をしている時間が惜しいので返事の代わりに食パンに肉じゃがを挟んだものを口に突っ込んでおく。この狸は食事を与えてさえおけば静かにしているので、非常に扱いやすい。小さな口でモグモグとパンを食べるぽん太を見ながら、ティッシュとハンカチ、財布しか入っていなかったカバンに饅頭(まんじゅう)を入れた。



 誰もいない家の中に、「行ってきます」と声をかけて鍵を掛けた。

 トテトテと後を付いて来たぽん太を掴み肩に乗せると、歩きなれた駅までの道を行く。

 今の季節、この町から見える山々は目が覚めるようなの緑に染まる。〖山滴る〗と言う言葉を映像で表すとしたら、こうなるのだろうと思うような美しさだ。

 そうして風景を見ながら歩くと、駅までの数分の道のりなどすぐ。キョロキョロと辺りを見回すと、不機嫌そうな顔をして壁にもたれかかっている蒼の姿を見つけた。携帯で時間を確認すると、まだ約束の時間まで3分ある。早めに出てきたのだが、待たせてしまったのだろうか。



「ごめん蒼。待った?」

「別に。じゃあ行くか」



 傍から見ると不機嫌そうに見えたが、どうやら怒っているわけではないらしい。それにしては顔が険しいような気もするけれど。

 蒼のお説教を受けずに済んだ事に安堵しつつ、南松本(みなみまつもと)の映画館に向かう。

 電車に乗っている時間だけで1時間は掛かったけれど、話をしていればすぐだ。南松本の駅から映画館までも近かったため、体感時間は30分も無かったような気がする。



「そう言えば、何の映画のチケット貰ったの?」

「あー……何か恋愛物らしい。アカハライドとか言う」



 アカハライドは、今女子高生に人気の漫画を実写化した映画だ。見に行きたいと思いつつも、片付けなどで忙しく諦めかけていたのだけれど。



「本当? 凄く見たかったの! その人にお礼言わなきゃ、誰に貰ったの?」

「あー、いや、そいつが匿名が良いって言ってて……」



 その質問をした途端に、モゴモゴと歯切れが悪くなる蒼。それを見て、もしかして……と1つの可能性に思い至った。



「ねぇ、このチケットってもしかして蒼が買ってくれたの?」

「は?なわけねーだろ、貰ったんだよ」



 少し怒ったような言い方をしているけれど、真っ赤になっている耳を見れば照れ隠しなのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。



「蒼って、たまに分かりにくいわよね」



 そう言って笑うと、更に濃い赤に染まっていく。その変化が面白く、しばらくからかっていると限界になったらしい蒼にデコピンをされた。

……かなり痛い。将来ハゲたら絶対蒼のせいだ。

 そう伝えれば、「その時は責任持って全部抜いてやる」と恐ろしい宣言をされる。ちょっと本気で怖いからやめてほしい。

 そんなくだらない掛け合いをしながら、ポップコーンと飲み物を買って指定された席に座る。徐々に暗くなっていくスクリーンに、ちょっとドキドキしていたのは秘密だ。





「はー、感動したわね、蒼! 誰かさんは寝てたみたいだから分からないかも知れないけど」

「起きてたよ」

「どこまで?」

「……主人公が泣いてるとこ?」



 しっかりと見ていたような言い方をしているが、それは物語の一番最初の部分だ。そう言えば、ぽん太もそのあたりで寝ていた。蒼は恋愛映画に関しては、ぽん太と同じレベルになるらしい。



「つまり?」

「最初からだな」

「開き直るな!」



 開き直って、寝ていた事を隠そうともしない蒼を軽く叩きながら、先程見た映画の内容を思い出す。それは、1度失恋した女の子がもう1度その人に好意を伝えるため奮闘するという話だった。女の子の苦しみと葛藤が、まだ恋をしたことのない私にも伝わってきて思わず胸が苦しくなってしまった。

 しかし、それよりも気になるのが蒼の様子だ。

 映画を観たあとから、何となく元気がない。普段からそれほど喋る訳では無いけれど、それでも様子がおかしい気がするのだ。

 居眠りをしていたから、と言う理由もあるけれど、私とあれだけ言い合いが出来ていたのだからそれはないだろう。



「蒼、どうかした? 大丈夫?」

「いや、何でもない。それより、帰りにちょっと公園寄ってもいいか?」



 急な話に驚くが、特に予定もなかったため了承する。すぐに行ってもよかったが、蒼たっての希望で夕方に行くことになった。







なかなか異世界に行かなくてすみません。

パソコンだと数ページ何ですけどね……。次の話で必ず、異世界に行きますので、見限らずに読んでみてください。


今回も、読んでいただき、ありがとうございました。

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