期待するコトなんてそうそう起きるものではない
ザシュ
ボッ
ギャアアア
襲いかかってくる魔物達を片っ端から倒していく。
「雑魚ばかりだが、これは…確かに異常発生だな。」
今朝がた、今まで暮らしていた家をでた。国からお尋ね者の報せが出ている事を考え獣道を選びながら隣国を目指している。しかし、次々と魔物が出てきてなかなか進めずにいる。
「はぁ。俺がまだ勇者なんて立場でなかったら、変装でもして街中突っ切れたんだが。この国で俺のことを知らないやつなんていないだろうからな…すぐ見つかっちまうだろうしなぁ。」
「勇者、だもんね。」
魔法では姿形を変えることはできぬしな。魔物の中にはそのような力を持つものもいたが。
それにしても、人間とは愚かな生き物よの。この国に限ったことではないが。我輩が魔王であった時、多くの国からこの国のように己達の欲の為に、あることないことを広め、勇者達を唆し我輩を討伐させようと目論む者達がいた。
我輩を倒したとしても、次の魔王は現れるというのに。
魔物は殺されればソレまでだが…『魔王』は違う。
その時の魔王が消えれば、数日の後、新たな魔王の卵がどこからともなく現れる。つまり、永遠と『魔王』を倒し続けねばならぬのだ。
そして、一つ気になることがある。…おかしいのだ。次の魔王の卵が孵化した気配が未だ無いのだ。我輩が亡くなって数十年たった今でも、だ。しかも、それならば何故こんなにも多くの魔物達が人間の地にいるのか。次の魔王の誕生を待たずして、魔王不在のまま人間の地に攻めいるなど…魔物達の暴走か、それとも誰かの命令によるものなのか…ふむ。
風の精霊…おるか?
『なんでございましょう魔王様。』
風の精霊…何故このように人間の地に魔物達がいるのか知っておるか?
『いえ、生憎…我らは魔王様が居なくなられてからずっと精霊界に居りました故、魔界の情報には疎く…申し訳ありません。』
いや、よい。責めるつもりはない。しかし、一つ頼みがある。魔界に調査に行って欲しいのだ。
危険かもしれぬがよいか?
『もちろんです。』
それでは頼む。ああ、後…我輩はもう魔王ではない。『ユエ』とアランに素晴らしい名をもらった。これからはそちらで呼んでくれ。他の者達もだぞ。
『!!…お名前を承ることができるとは、なんという光栄!!』
『ありがたき幸せ!!』
『ユエ様!!我らはこの先永劫あなた様に着いていきます!!』
『お、おまえ達…盗み聞きしていたな!!私とユエ様の話を!!』
『…なんのことだか?』
『おまえだけ呼び出されるのが悔しくて聞いていた…なんてことはないぞ。』
『私は止めたのだぞ、ユエ様に不愉快な思いをさせてはいけないと。』
いや、別によいが…。今回は、速く知りたい情報があったので、風の精霊に任せただけだ。他の者達には、いつも通り我輩に力を貸してもらわないといけぬからな。よいか。
『『『『お心のままに。』』』』
『それでは、すぐに私は魔界に飛びます。』
任せたぞ。
「ユエ?どうした?疲れたか?」
おっ、とどうやらアランに声をかけられていたのに気づかずいたらしい…なんたる不覚!!
「いえ…そうですね。少し、疲れました。」
あまり進んではいないので、体力的には疲れていないし、魔力も使ってはいないから疲れていない。
だが、…お腹が減った。
「なら、休憩するか。少し早いが昼食もとろう。」
地の精霊。今からしばし昼食をとる。匂いにつられて魔物が近づいくるかもしれぬ。対処しといてくれ。
『かしこまりました。』
火の精霊と水の精霊はいつも通り料理の手伝いを頼む。
『『かしこまりました。』』
途中で捕まえた鳥をアランに捌いてもらい、ささっと調理する。持ってきていたパンとあわせていただく。
うん。美味しいではないか!!
最初は黒ずみを精製していた我輩だが、今では食べれるものを作れるようになった。
アランは黒ずみの頃から美味しいと言い張っていたが…アレは食べ物ではなかったと思う。
「それにしても…なかなか進まねぇよな…。このまま行くと、しばらくは野宿だな。隣国と割と近い場所に住んでいたから三日もあれば着くと思っていたんだがな。」
そ、それは…つまり、アレか!!
数日は身を寄せあい寝るということか!!
「ユエ、ごめんな。年頃の女が地べたで寝泊まりはキツイよなぁ。」
いつもは強気なアランが申し訳なさそうに眉を下げてユエを見てきた。
「う、ううん!!大丈夫!!」
むしろ、カモーン!!
さ、寒いとか言ってひっついて寝るのはありかな!?
う、腕枕とか!?
今からドキドキが止まらないではないか!?
そうして、つかぬ間の休憩を終え、興奮冷めやらぬままにドンドン魔物を倒し進んでいった。
「午後からはユエのお陰ですげぇ進めたわ!!ありがとうな!!」
ニカッと爽やかな笑顔を見せ、頭を撫でてくる。
幸せだ。疲れなど吹き飛ぶ!!
「じゃあ、寝ようか。」
来たー!!!!!!
ふんっふんっ
鼻息が荒くなるのも仕方がなかろう。
アランは、ユエに背中を向け、鞄の中から何かを取り出した。
「ほら、寝袋。俺は座ったまま眠れるから。敵がいれば気配で起きれるし、そのまま戦闘に入れるからな。安心して寝ろ。」
「………………ウン。ワカッタヨ。」
昼間と同じように精霊達に見張りを頼み、我輩は泣く泣く寝袋で寝たのだった。




