平穏な日常は急に崩れるものである
さらにあれから10年がたち、我輩は13歳になった。
特にこれといった問題もなく、幸せな毎日を送ってきたつもりだ。
今日も日課である『アランを起こす』という仕事を完遂するため…深呼吸をし挑んでいる所だ。
カチャリ、ゆっくりとドアを開ける。
まだだ…まだ、アランを起こす訳にはいかない。
そろり、そろりとベッドに近づいていく。
ふむ…寝ているな…
金色のサラサラした髪の毛。普段つり上がり気味の強い瞳は今は閉じられている。
ああ…イケメンだ…
ジーと見つめていると急に腕をひかれた。
「…ん。はよ…ユエ…。」
は、鼻血が…
毎朝、この掠れたアマアマセクシーボイスにヤられそうになる。が、起こすことは止められない…恐るべし中毒性だ。
心の中では歓喜しながらも顔には出さずに、朝食の準備をする。
平穏な幸せな朝。
それは、突然の来訪者によって破られた。
目の前にいるのは一人の男、おそらく、騎士だと思われる。一応、客扱いして飲み物を出した後、アランの隣に腰かけた。
「ふん。くだらんな。」
騎士から託された国王の手紙に一度目を通すと鼻で笑った。
「お願いいたします!!勇者様!!我々が相手をするにはもう限界です。このままでは、この国は滅んでしまう!!一度は魔王を倒した勇者様、あなたならばこの国を救うことができるはずです!!」
「…この国が滅ぼうがなんだろうが俺には関係ないね。それに、自業自得だろ。あんたらは、自分達の領地の拡大と国の力を世界に広める為、俺を唆し魔王を殺させた。あの時より、俺はあの国の為にこの剣をふるうことはしないと誓ったんだ。帰れ。」
「あなただって!!あなただって一緒ではないか!!魔王を倒したのは他でもないあなただ!!」
「ああ、そうだ。だから、俺は逃げも隠れもしねぇよ。魔王の仇を討ちに来るってんなら正々堂々と迎えてやるよ。まぁ、そうそう簡単には殺られてやるつもりはねぇが。」
チラリとアランはユエに目をやった。
ユエは目を見開いてアランを見つめている。目が合うと複雑そうな表情をして視線をそらした。
「…断るということは、国家反逆罪と見なされますよ。」
騎士は唇を噛みしめ、憎々しそうに言った。
「ああ。構わねぇよ?どうせ、お前らに追われようが負けるつもりはねぇ。」
「本気ですか?そちらのお嬢さんはどうするつもりですか。あなたの私情で魔物達にも襲われ、国にも追われる。そんな、生活をさせるつもりですか!?」
「…っ、それはっ」
「我輩を侮るな!!我輩は足手まといなどにはならぬ!!それに、アランの側を離れる事より、戦う方がよっぽどましだ!!…なんなら、…今すぐにでもキサマを片付けてやろうか?」
クックックックッ
笑いながら、目には少女らしからぬ威圧感を持って目の前の騎士を目を細目ながら見つめた。
ゴクリ、と音がなる。冷や汗がツーとこめかみから垂れたのかわかった。
異常だ…なんなんだこの娘は…
「もう、………二度は言わないぞ。帰れ。」
アランの最後の言葉が聞こえた瞬間、騎士は逃げ帰るように飛び出して出ていった。
そんな騎士が出ていった扉を見つめながら二人は再び会話を始めた。
「アラン。」
「なんだ?」
「私は、何があろうとおまえの側を離れるつもりはない。…絶対にだ。」
視線をアランにやり、逃がさないとばかりに見つめた。そんなユエに対してアランは困った様に、それでいて嬉しそうに自嘲した。
「参った。…一生手放せねぇじゃねぇか。」
今度はユエも笑った。
―はんっ。アランが手放そうとしても、我輩が手放すわけがなかろうに。ハッハッハッハッ
「あ、近いうちにここ出なきゃだな。魔物達はともかく。国の人間の方は面倒だからな。」
こうして我輩達の平穏な日常は終わりをつげた。




