それぞれの決心
ユエが姿を消して、アランは追っ手から逃げることをやめた。すぐに追っ手に見つかってしまったが、アランにとっては鬱陶しくは感じるものの、適当にあしらっとけばいいだけだとこの時までは思っていた。
「勇者様お願いです!!お戻りを!!」
「何度来ても無駄だ!!」
アランの気迫に後ずさる騎士達だが、われに返り言い募る。
「最近になり魔物達の侵略が止まったのです。噂によると魔王が現れたためだとか…あちらがおさまっている今が攻めいるべきなのです。勇者様がお力を貸してくださるのならば、今までの事は許すと国王がおっしゃってくださっています。ですので………っ」
一瞬で空気が変わった。明らかな殺気が漂う。
アランは静かに怒りを目の前の騎士に向ける。
気圧され騎士は次の言葉がでなくなる。
何のためにユエが魔界に戻ったと思っているのだ。
何のために俺がユエを手放したと思っているのだ。
俺にまたユエを殺せと言うのか。
お前らなんかの為に。
「ふざけるな…」
アランはこの日初めて追っ手の命を奪った。
この国を見限ることを決心して。
「ふむ。なにやら楽しそうな事をしているな。」
「…何者だ。」
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「魔王様…そろそろお休みになられては?」
「いい。」
「よくありませんよ。魔王様は今、人間の身体なのですから無理をなされば死にますよ。」
「…かまわん。」
血の気の引いた青白い顔でユエは机にかじりついている。周りには精霊達が心配そうに様子を伺っている。
べリアルは溜め息を吐いた。
ここまで、魔王様はあの男を気に入っていたのか。 少しの苛立ちと少しの罪悪感。
べリアルは一度目を伏せた。再び目を開けたときには何か決心したかのような表情を浮かべていた。ただし、その表情に気がついたものはいなかったのだが。
「魔王様。」
べリアルはユエに近づき声をかける。それに対して、ユエは「なんだ。」と顔は目の前の書類を見ながら応えた。
「ご無礼をお許しください。」
「何…を…!?」
ユエが反応するよりはやくべリアルはユエを強制的に眠りにつかせた。
精霊達はべリアルの行動を止めなかった。むしろ、安心したようでべリアルに礼をのべた。
べリアルは、眠りについたユエを抱き上げ寝室へと運ぶ。ベッドの上に下ろすとユエが起きないのを確かめ部屋を出た。
「シュベルツ。いるんでしょう。」
「やはり、お前には気がつかれたか。」
暗闇から現れた一匹の蝙蝠は姿を人形に変えた。
シュベルツはニヤリと笑みを浮かべ、べリアルの言葉を待つ。
「あなたに頼みがあります。」
「内容によるが…なんだ?」
興味深げに瞳を細めべリアルに問いかけた。
べリアルの話を聞き、楽しげに笑うと快諾した。
べリアルはシュベルツの返事を聞くとすぐにその場を立ち去った。
「べリアルも内心は複雑なのだろうな。あのべリアルが私に頼みごとをするくらいだ。しかし、…楽しみだな。」
ペロリと唇を舐めシュベルツは笑った。




