魔王様魔界に帰る
久方ぶりの魔界は驚くほど荒れていた。
至るところから喧騒が聞こえる。
抑えるものがいなくなった魔界は酷いもので眉をしかめてしまった。
べリアルめ…こうなるとわかっていて尚放置していたのだろう。
ユエが通るとざわめきが起こる。
人間だ。人間だ。喰っていいのか?
ダメだろ。隣にはアイツがいる。
アイツか…でも、アイツは魔王様がいなくなって使い物にならないって聞いたぞ?
そういって襲いかかって酷い仕打ちを受けたやつがいるらしいぞ。
そういえば、噂を聞いたぞ…確か、魔王様の生まれ変わりが…
「ニンゲンー!!オレノモノ!!」
本能のまま生きる下級魔物がユエに狙いを定めて飛びかかった。とっさにべリアルが前に出ようとしたのをユエは視線で止める。
「…運の良いヤツだな。我輩は、ものすごく機嫌が悪いんだ!」
手を振り風の精霊を呼び出し細切れにする。さらに、火の精霊の力で燃やす。この間、わずか二秒。
「お見事…。運の悪いヤツでしたね。」
「どこがだ?痛みすらなく消滅できたのだ。幸せなヤツだろう。」
フン。と、鼻を鳴らす。べリアルは苦笑した。
これでこそ、魔王様だ。周りへの牽制にもなっただろうとほくそ笑む。ユエはべリアルの思惑にも気づいていて呆れたような視線を向けた。
このようなことをせずとも、我輩を狙ってくるような輩がいれば消し去るのみだというのに。
だが、効果はあったようだな。
周りの魔物達はユエ達に近づけず震えて怯えている。
「やはり、魔王様ですな。べリアルに聞いた時はしんじられなかったのですが…その力。そして、その魂の色、間違いないですな。」
「シュベルツ。」
銀色の長髪を後ろで結び、漆黒のマントを羽織るのは吸血鬼の長であるシュベルツ。
赤い瞳を好奇心で煌めかせユエを見つめる。見た目は人間界では30代といったところだが実は数千年以上生きていて己ですら正確な年齢がわからないのである。
「こんなところまで何のようだ?」
「何のようとは。わかりきったことを聞くのですな。見極めにきたのですよ。我らが魔王様を。」
「無礼な!!」
べリアルが前に出て今にも噛みつかんばかりにシュベルツを睨む。
「べリアル。下がれ。」
ユエに言われ、悔しげな表情を浮かべながらも下がる。ユエはシュベルツにどこかからかうような視線を送った。
「それで、おまえの判断はどうであったのだ?」
「最初に述べたとおり、あなた様は紛れもない魔王様ですよ。それを確認しました。…本当によかったです。人間に生まれ変わっていたのはいただけないですが、魔王様が消えてしまうよりはマシだ。魔王様が消えてからの魔界は…とても住めたものではない。」
苦虫を潰したような表情を浮かべシュベルツは呟いた。本心からの呟きにユエは眉を下げた。
「そうか。」
複雑な心境であった。
個人としては死んだことには悔いはない。
今この時でさえアランと出会えたのは何ものにもかえがたいものだと思っている。
けれど、魔王として、自分が消えた後のこの世界のことを思うと…やはり、複雑だ。
ああ。アラン。
もう、我輩がいないことに気がついているであろう。
どう、思った?
悲しんでくれたのだろうか。それとも、何も言わず消えた事を恨んだのだろうか。
いずれにしろ、我輩のことを強く思ってくれればいい。むしろ、どんな感情であれ生涯我輩のことだけを思い続けていれば良い。と、思う我輩はやはり酷いのであろうか。
「魔王様。さぁ、城に。仕事が山程ありますよ。」
「私も、多少の手伝いはしようではないか。」
「ああ。」
頷き、城へと足を向けた。
ユエを真ん中にべリアル、シュベルツが一歩引いた形で左右を挟み歩く。
魔物達はその様子を見て噂は本当なのだと、確かな情報として伝えていく。
こうして、ユエは魔界に戻ったその日にその存在を知らしめたのであった。




