初めての…
ガヤガヤと賑やかな人混みをはぐれないように手を繋いで歩いていく。
「すごい人だね。」
「ああ。今日は祭りだからな。これだけ人がいて祭りならば誰も周りになんて、俺達のことなんて気にかけないだろう。…初めての祭りなんだ楽しもう。」
「…うん!!」
「…あの(魔王の)言葉遣いを知っていて、今の言葉遣いを聞いたら違和感があるな。」
ニヤニヤと笑いながらユエを見るとユエは頬を赤らめアランの横腹を叩いた。…否、正しくは殴った。
「ぐっ」
照れ隠しの拳は思いの外威力があったようでアランは呻いていた。しかし、その様子に初めての祭りと初めてのデートを体験しているユエは浮かれて気づいていなかった。アランはそんなユエの様子を確認すると愛しさを滲ませた瞳で微笑んだ。
今日ぐらいは何も考えずにデートを楽しみたい。
最近は二人でいても切なくて堪らなくなりどこかギクシャクしてしまっていた。だから、今日だけは祭りの雰囲気に力を借りてみようと思ったのだ。
「ユエ。躍りが始まるまで屋台巡りするか?」
先程からたくさんの屋台を前にチラチラと視線を送っているユエに気がついていた。特に視線を向けていた甘い果実とクリームを焼いた生地で包んだクレープのようなものを売っている屋台へと誘導する。ユエは気にしないフリをしつつも目は爛々と輝いていた。
屋台巡りを終わらせた頃には躍りのための音楽が流れ始め男女のペアが次々と手を繋ぎステップを踏み始める。
ユエとアランも、手を繋ぎ見よう見まねが踊り始めた。どこか、ギクシャクとした踊りだけれども、二人の表情は誰が見ても幸せそうであった。
曲が終わりに近づき激しくなる。そして、フィナーレの音楽と共に踊っていた男女のペアは抱擁とキスを交わした。
周りの行動に驚き固まってしまったユエであったが、腕をとられ一瞬唇が触れあった。
驚き照れたが、何よりも嬉しさが勝りアランに飛びつき抱きついた。熱い抱擁に周りも囃し立てる。今この場には、変な詮索をするものも、訝しげに見るものもいない。ただただ幸せそうな男女を祝福するもの達しかいなかった。
今まで一番幸せな瞬間かもしれないと思った。
この記憶があれば生涯生きていけると思うほどに。幸せな瞬間であった。
「今までありがとうアラン。愛してるぞ。」
初めて自分から重ねた唇は震えていた。
ソッとアランを起こさないように宿を抜け出した。
宿を出ると、そこにはわかっていたかのようにべリアルが立っていた。
べリアルに一別もせず歩き出したユエ。
べリアルは一礼するとユエの後を一言も発しないまま付き従う。
ユエは涙が頬を伝うのも気にせず唇を噛み、前だけを見つめひたすら歩いた。




