どんなに考えてもたどりつく選択肢は一つ
べリアルが消え静寂が訪れた。口火を切ったのはアランだった。
「とりあえず、泊まっている宿に戻ろう。」
先程までは周りに聞かれないよう結界が張られていたようだが、それも解かれてしまったようで周りから注目され始めていた。
「ああ。」
ユエは何かを考えているようで口数少なく返した。アランはユエの手を力強く握りしめ、歩き始めた。
――パタン
ドアが閉まる音が部屋の中でいやに響いた。
「ユエ。いま、何を考えている?」
「………………。」
「…まさか、揺れてるんじゃないだろうな。」
ユエの肩を掴み顔を覗きこむ。ユエは苦痛の表情を浮かべていた。
「…揺れてはいない。」
「なら、なんでそんな顔してるんだよ。」
「揺れているんではない。べリアルはあんな言い方をしたが、………我輩に選択肢などないのだからな。」
「何を…」
どう考えても、たどり着く選択肢は一つ。
それを望んでいなくてもそれが最善なのだ。
魔界を統治するものがいないということは、魔物達を抑えるものがいないということ。それは、今までギリギリで保っていた魔界と人間界の均衡が崩れるということに繋がる。
「我輩が魔界を統べるのが最善だ。次の魔王が現れるまで。もしくは、べリアルが言っていた通り我輩が原因ならば我輩が死ぬまで。人間といえど我輩には大精霊達がいる。我輩に手を出せるものなどそうはいないはずだ。べリアルもついているならなおさらな。」
「魔王の代わりなら他のやつがやればいいだろ。ユエがする必要なんてない!!おまえは今は人間なんだぞ!?」
アランはユエを揺さぶる。ユエはその手に触れて首を振り応えた。
「魔界ではべリアル以外はそれぞれの派閥ができあがっているゆえ、誰がなろうとも納得しないものが必ず出てくる。それでは内乱が起きるだけだ。どの派閥にも属さず魔界内でも魔王に次ぐ実力を持つのはべリアルだけだが…べリアルには自分が魔界を統べることなど、興味すらないのであろう。だからこそ、ほかのもの達は人間になった我輩が魔界を統べることに納得するしかなかったのだろう。」
『魔王様だけが、私の存在を認めてくれました。私はあなただけを主として認めます。』
小言が煩いやつではあったが、誰よりも我輩のことを考えて、誰よりも信頼でき、誰よりも側にいてくれた。
遠い昔を思い出すように視線を向けるユエにアランは苛立ちを覚えた。
「なんだよ。あいつは…おまえのなんなんだよ。俺より…あいつが好きなのか?」
「違う!!そうではない!!第一あいつを、いや、アラン以外を好いたことなど一度もない!!」
「っ!!」
アランはユエを力いっぱい抱き締めた。
ユエも抱き締め返す。
「納得はできない。できないが…否定もできないんだよ。ユエを人間界に留めたところで、俺のせいで平和で暮らせることはない。魔物達はさらに増えていく。ユエが魔界に行ったとして、会えることはできなくなるだろう。そんなのたえられない。ユエについていきたくとも勇者であった俺が受け入れられるとは思えない。」
こんなに好きなのに、愛しているのに…
一緒にはいられない
そんな選択肢しか浮かばない
アランの瞳から溢れた涙がユエに落ちる。
ユエも同じように瞳から涙を溢したまま見上げる。
どちらともなく離れたくないと、さらに身体を寄せ合い唇を重ね合わせた。




