べリアルの申し出
「おまえ馬鹿か?コイツのどこが魔王だよ。第一魔王は俺が…その前におまえ、何者だ?」
「質問だらけですねぇ~。ええ、確かに魔王様はあなたが倒しましたね。ですのでそちらにいらっしゃるのは厳密に言えば魔王様ではない。ですが、魔王様だったお方なのです。転生と言えばわかりやすいですか?私が何者かはそちらにいらっしゃるかたがよくご存じだと思いますよ。」
ふふふ、と嬉しそうに語るコイツをどつき回したい。ずっとずっと…これからもずーっとアランには秘密にしとく筈だった事柄をベラベラ喋っているコイツを。
「なんだよそれ。…意味がわからねぇよ。ユエと俺はずっと一緒だった。お前なんか知るよしもねぇだろ。それに、…ユエが魔王だったなんて信じられるわけねぇだろ。なら、なんで殺した俺の側にずっといるんだって話だ。」
アランは語尾が震えながらも目の前の腹黒メガネを睨み付けている。
ツキン、と胸が痛んだ。
「あいにく、本当ですよ。魔王様が何故あなたの側にいるかは…あなただからですよ。魔王様はあなただから殺されたあなただから側にいたいと願ったのです。悔しい事にあの時から魔王様はあなたに夢中のようだ。」
「こ、こら!!べリアルきさま!!人の恋愛事情をベラベラと!!」
「…ユエ。」
しまった!!と思った時にはもう遅かった。茫然とこちらを見るアラン。
「アラン…すまない。…べリアルの言うことは本当だ。私には前世の記憶がある。しかし、今はただの人間の女なのも確かだ。私は今も、いや、アランと一緒にずっといて改めてアランを好きだと思った。…これからどうするかは…アランに任せる。」
「なんだよそれ。」
ポツリと呟かれた言葉の弱さに、胸が軋む。
「迷ってらっしゃるのですか?魔王様のお気持ちを踏みにじるのですか?」
こんな状況でもニコニコ笑っているべリアルにイライラが募る。
「いきなり、言われてそうやすやすと理解できるかよ!!…それに、そんな簡単に手放せるような気持ちなのかよ?」
アランの鋭い眼差しが自分に移ると言葉に詰まった。
このような目で見られたことは一度もなかった。
足元から何かがガラガラと崩れていく気がした。
それは、信頼か愛か…
「魔王様。「その名で呼ぶな!!私の名前はユエだ!!」失礼いたしました。ユエ様、帰りましょう。」
「何を…」
「は?!」
べリアルは一歩一歩ユエに近づいていく。
「魔界に帰るのです。」
「そんなことできるわけが。」
「私がこちらに来た理由をまだ話してはいなかったですね。魔王様を、いえユエ様をお迎えにあがったのです。今、魔界では卵が未だ現れず混乱が起きています。おそらく、その原因はユエ様にあるのではと。」
「何故…我輩にはもう関係ないだろう。我輩は今はただの人間の小娘でしかないのだぞ!!」
「ただのではないでしょう。魔王様の記憶を持ち、大精霊達を従えたものがただの小娘なわけがない。ユエ様、皆が魔王様のお帰りをお待ちしています。」
「ありえないな。魔界のもの達が人間を魔王として迎えるわけがない。それに、人間の身の我輩が魔界に行ったところで瘴気に当てられ長くは暮らせまい。いや、それが目的か?我輩が死ねば新たな魔王が現れるかもしれぬのだからな。」
ふん、と鼻で笑いべリアルを見据える。
「ちょっと待て!!そんな話を聞いてユエを連れていかせるわけないだろう!!」
アランがべリアルとの間に割り込み、庇うように立つ。アランの気持ちをまだ聞いていないにも関わらず心が浮かれてしまった。
「邪魔をしないでいただけませんか。…話を戻しますが、ユエ様は大精霊を従わせている。彼らに頼めばあちらで住むことは可能でしょう。それと、魔界のもの達にはもう話を通しています。…もし、万が一歯向かうものがいたとしても私が守って見せます。私はこの先もあなた以外のものに従うつもりはありません。あなたが人間だろうが魔王だろうが関係ないんですよ『おまえは、おまえだ』そうおっしゃったのはあなたです。」
先程までニコニコしていた微笑みは消え、切なげに揺らめく瞳はユエを捉えた。
「べリアル…おまえ…」
「ユエ!!騙されるなよ!!おまえは、今は人間なんだろ!!おまえが…おまえが好きなのは俺だろ!!なら、揺れるなよ!!側にいろよ!!俺は…そう頭よくねぇから混乱しちまったけど、これだけはわかった…おまえが何者であろうが好きだって気持ちはかわらない!!」
「アラン…っ。」
「…今回はこちらが不利ですね。一端引きますが、ユエ様…あなたが戻られないと魔界が、この世界がどうなるか今一度よくお考えください。また改めてお迎えにあがります。それでは…」
風が巻き起こったかと思うと、一瞬でアランの後ろにいるユエの前に立ち恭しく手をとり甲に口づけをした。
アランが殴りかかったが、すでにその姿は消え、振るった拳は空を切った。




