魔王と勇者
いやはや、困った。
ああ、挨拶が遅れてすまない。我輩は魔王だ。
名前?名前など…ない。
魔王は職名?そ、そうは言われても名前など産まれてから一度も呼ばれたこと等ないのだからないものはないのだ!!
…そんな憐れんだ目で見るな。…あー、こほん。
話がそれたが我輩は困っているのだ。
何に困っているのかって?
それは、アレだ。
コイツだコイツ!!
目の前にいるイケ…いや、勇者だ。
たった一人で我輩に立ち向かって来るなど…
なんて勇気のあるやつだ!!
今まできた奴らなんて、ゾロゾロ仲間を引き連れて来るやつらばかり!!
男なら一対一か常識だろう!!
…いや、我輩は中性なので男でもないのだが…。
それに比べコイツはたった一人で聖剣を携えて我輩を倒しに来たのだ!!
…そう、我輩を倒しに…
我輩は言わずもがな、魔王だ。そして、コイツは勇者だ。戦わなければならない宿命。いや、運命。
わかってはいる。わかってはいるが…どうにもやりにくい。
なんとか、攻撃を交わしながら、殺さない程度にいたぶっているが…勇者も中々の腕だ。中々に厳しい戦いだ。…このまま、諦めて引いてはくれないかと思いながらも…そんな事にはなり得ないこともわかっている。だから、困っているのだ。
…この勇者を前にして、簡単に負ける事も出来ぬし、勝つことも出来ぬ。
うぬぬ。…ぬ?!
な、なんと破廉恥な!!
我輩が切りかかった刃を服一枚で避けた勇者。しかし、服は切れたのだ。そう、服は。
そこから、覗く素肌……………実にけしからん!!
お。もう、ちょっと!!もう、ちょっとでチク『ピー』が見える!!あと、ちょっとだ。そこだ!!そう!!こ、ここだ!!
ザシュッ
「!?…な!?」
なんと、不覚…。我輩の身体を貫く刃。
聖剣での傷は治らぬ故…この傷は致命傷。
これは、我輩の…己の欲が招いた結果だ…我輩の敗けだ…。
「勇者よ…。できれば、違う形で会いたかった…ぐっ!!」
驚いて目を見開く勇者の頬を撫で、勇者に倒れこむようにして…我輩は意識を手放した。
ああ…勇者の温もりだ………我輩は…幸せであった…




