武者修行とか間に合ってますから
第一王子がいるということは、つまり……
うららかな昼下がり。学園の休暇日がしばらく続くこととなり、第一王子はしばらくぶりに王宮へと舞い戻っていた。
とりあえず溜まっていた雑務を全滅させ、はっちゃけようとしていた母――王妃に説教を喰らわせ、父――国王はボコる。
一連の流れを呼吸するように片づけて、やっと一息つく王子。
だが、その平穏は長く続かなかった。
「ぅ兄上ぇえええええ! 今日こそは諸国漫遊じゃなかった、武者修行に出る許可をぉおおおおお!!」
どがんと王子個室の扉をぶち破るようにして現れた人物。それに対して王子は。
「麻痺(物理)!」
腰の入ったアッパー気味のナックルパートを、左脇腹肋骨の下あたりに叩き込んだ。
内蔵に浸透するその一撃を食らった相手は、「くぺえ」とか小さく悲鳴を上げつつ倒れ込む。尻をかち上げうつぶせに倒れたその人物は、びっくんびっくん痙攣しながらも必死でうめき声を上げた。
「あ……兄上、それ魔術違う……」
「失敬な、ちゃんと拳に麻痺の術を付与してますよ。……もうちょっと電圧上げるべきだったかな……」
「しゃらっと怖いことを言うなっ!!」
吠えながら即座に立ち直る相手に「ちっ」と舌打ちする王子。よく見れば相手は体格こそ王子と互角以上だが、その顔はまだどこか幼げな気配を残している。そして短く刈り上げ逆立ててはいるがその金髪と碧眼、顔立ちは王子によく似ていた。
そう、この人物こそ王子の弟、王国第二王子であった。(ややこしいのでこれ以降は兄王子と弟王子と表記します)
とにもかくにも、兄王子は明らかにちょーめんどくせーと言いたげな態度と声で、弟王子に言う。
「で、なんです人が折角の休みを満喫しようって時に」
「だから武者修行に行く許可をもらいにきたのだ! 兄上に勝ったら行っても良いと言ったではないか!」
はあ、と溜息。この弟、まるで国王の生き写しかと思うほどにアレで脳筋であった。常に王宮の生活に飽きており、なにかあっちゃあ城を抜け出そうとする。確かに剣の腕は国王に迫るものがあるのだが、同様に性格も迫ってるので絶対騒動を起こすと周りからきつく止められていた。しかしそれでもどうにかして外に出ようと悪戦苦闘している。
それを色々宥め、妥協した結果が、兄に勝てたら外に出ても良いという条件なのだが。
「今一発で片が付いたでしょうに」
「いやあれは勝負じゃないと言うか、入室した途端殴るとか酷くない!?」
「そんぐらいしないとお前落ち着かないでしょうが」
ともかくはっちゃけてる人間には鉄拳制裁が一番だと信じている兄王子である。なんだかんだ言ってこの人もどっかおかしい。
そんな兄に対して、弟王子は納得してない表情と態度で詰め寄る。
「今のは無効! ノーカウント! 正式な立ち会いにて雌雄を決するべきだと俺は愚考するのだが!?」
「やですよ面倒くさい」
「いやそこは受けようぜ約束言い出したの兄上ではないか無責任な!」
「あのね弟よ」
言いつのる弟に対して、兄王子はばっさりと切り捨てる。
「結果の分かってる勝負に無駄な時間をかけるつもりはないんですよ僕は」
「うわー超上から目線きたこれ! やってみなければ分からないだろう今回は秘策があるのだぞ!」
「へーそーですか」
「完全に興味ねえ!?」
とかなんとかあって結局、兄王子はいやいや勝負を受けることにした。
このままだと弟がうるさくて仕方ないし、一々しばき倒すのも面倒くさい。さくっと勝負を決めて大人しくさせようと思っている。
兄王子が待つ勝負の場所は騎士団や近衛兵も使う訓練場。そこには騎士団長が、今期の新人を引き連れて見学に訪れていた。
訓練場に張られた結界の外側で達観した目を向ける団長に、騎士の一人がおずおずと語りかける。
「あ、あの~団長。なぜ我々はここに連れてこられたのでしょう」
「まあ見物よ。ためには……かけらもならんがな」
「?」
団長の言葉に首をかしげる新人たち。地方から訪れ入団したばかりの彼らは、まだ王室の恐ろしさを知らない。
ややあって、弟王子が訓練場に姿を現すが。
「ふはははは! 待たせたな兄上!」
ハイテンションでがっしょんがっしょんとかけてくるその姿。すんごく禍々しいデザインの黒い全身金属鎧と、これまた禍々しい呪われてそうな大剣。どう見てもガチ装備であった。
対して軽装の兄王子は、半眼を向けてやる気なさげに問う。
「……大体予想はつきますけれど、なんですかその装備は」
「なに王宮の【ラボ】からちょっと拝借してきた試作品だ! コイツはスゴイぞ!」
王宮直属の研究機関であるラボは、身の回りの品から軍事まで、ありとあらゆる魔術応用技術を研究する組織だ。王国でも最高峰の頭脳が集うところであるが、同時に王家に次いで問題児が存在するところでもある。
まあそんなこったろうと思ったと溜息を吐く兄王子を余所に、弟王子は胸を反らして大威張りで宣う。
「何せこの鎧、希少鉱物であり最高峰の強度を誇る【ゴンダニウム鋼】製だ! しかも対魔術および対物理の紋章魔術がこれでもかというくらいに仕込まれている! この剣も同様にゴンダニウム製かつ破魔紋章魔術のおまけ付きよ! さすがの兄上も傷一つつけられまい!」
「……ゴンダニウム鋼って、普通の鋼の数倍の比重がありましたよね」
「……ああ」
「…………見たところ、あれ軽量化の紋章魔術使われてませんよね」
「…………王家の人らは皆あんなモンだ」
こそこそと言葉を交わす団長と新人はさておいて、ともかく弟王子は凄い自信だった。
兄王子はやれやれとばかりにゆっくりと両手を広げる。
「では、始めましょうか」
試合開始の合図など、ない。相見えればすでにそこは戦場。そういった覚悟を王家の人間は持ち合わせている。
弟王子も例外ではない。兜で顔こそ見えないものの、増長しまくった雰囲気が一気に引き締まる。そして彼は、じゃきりと胸の前で剣を立てた騎士の礼を取り――
「いやあああああああ!!」
烈破の気合いと共に、剣を肩に担ぐ構えで兄へと突貫した。
兄王子は慌てることなく、魔術を展開する。
「火炎弾――」
オーソドックスな火系射撃魔術。牽制のつもりか、だがその程度ではと斬りかかる弟も見物している騎士たちも思う。
もちろんその程度じゃなかった。
「――重複射撃」
瞬間、無数の火炎弾が兄王子の周囲に発生する。同じ魔術を同時に複数発動させるのは高等技術であった。ましてや周囲の空間を埋め尽くすほど発生させるとなると、どれほどの技量が必要になるか想像もつかない。
新人騎士たちは唖然とし、顎がかくんと落ちる。だが弟王子は怯むことなく突撃し、兄王子もまた躊躇うことなく無数の火炎を叩き込んだ。
爆発。衝撃が張られた結界を揺るがす。死んだ、あれは絶対死んだ。新人たちをしてそう確信させるに値するほどの破壊は、だがしかし。
「……ふはははは! その程度では効かぬ! 通じぬ! さすがは父上の頑強さを再現せんとした鎧よ!」
爆煙の中からゆらりと現れる無傷の漆黒の鎧。陽炎を纏ったそれはゆっくりと一歩を踏み出して――
「ははは……は……」
そこからばったんと前のめりに倒れた。
「「「「「はい?」」」」」
団長以外の騎士たちがぽかんと間抜け面を曝す中、兄王子は心底呆れたといった様子でこう言う。
「いくら魔術を完全防御出来ると言っても、発生した『熱』までは遮断できないでしょうが。ましてや熱持ちやすい全身金属鎧なんて着込んでたら、熱中症にもなるでしょうよ」
あっけない、そしてしょうもない決着であった。
「いやあの、城壁が粉砕どころか融解しそうな火力喰らって熱中症で済むとか……」
「王家の人らは皆あんなモンだ」
青ざめた新人の言葉にすげなく反応する団長。その表情は達観したと言うよりは何か別のものだった。
それに気付いていても、新人は言わずにはおられない。
「…………我々の存在意義って、なんなんでしょうか……」
応える団長の目は、腐った魚よりも生気がなかった。
「んなもんない。ってかまあ、これ見たらなんか色々と諦めもつくだろう。諸行無常的な意味で」
窓の外から見える空は青い。今日も良い天気だ、多分明日も良い天気だろう。現実逃避ではあるが、騎士団というか王家に関わる人間にとっては必須技能である。
こうして74回目の勝負はまたしても兄王子の圧勝に終わった。
どうせまた性懲りもなく弟王子の挑戦は続くのだろうが、まあその、色々な意味で下克上とか謀反の心配は全くないから問題はないだろう。多分。
王国は今日も平常運転である。
(※ちなみに弟王子はまだ十代前半)
静まれ俺のプラモリーガー魂。
魔改造は基本(謎)緋松です。
乙女ゲーム系のネタが尽きまして、さてどうしようかと考えていましたらこんな話が。
いえ第二王子がいることはうすらぼんやりと考えていましたよ? ただこんなキャラになるとは思っていなかっただけで。色々酷いのは、この話の仕様です。騎士団の存在意義? 王家の被害を外に出さないための人身御供だよ(断言)
でわでわ、10話くらい話が続いたら連載考えようかとかつらつら思いつつ、今回はこの辺で。