失われる物語
これは、お爺さんでも少年でもある男の話
64歳で死んだ19歳の物語。
2006年11月12日午後13時
待ってくれ・・・まだだ、まだ俺には・・・。
・・・彼女のところに・・・。
その場で俺は、倒れ、
老婆を見て目が合った。
彼女は、俺だってことに気付いてない様だ
よぼよぼな体で何もできず、声も出せないまま
俺の意識は、途絶えた。
1961年9月12日午後13時
俺には、高校時代から付き合っている彼女がいる。
高校の時は、バカみたいに毎日休日でも会っていたのに
大学に入ってからというものの、
東京に上京してしまった彼女とは、電話でしかつながりがなくなってしまった。
会いに行きたくても貧乏学生の俺には、到底無理だ。
彼女との距離を感じながらも、1年が経ってしまった
リンリンリンリン
彼女と話をするために苦労して買った黒電話が鳴る
彼女からだ。
「広場にいるの、今から来てくれない?」
高校時代待、まち合わせ場所につかっていた駅近くの広場
東京にいるはずの彼女が今そこにいるらしい。
「大切な話があるの・・・」
何かの覚悟を決めたような声、
来る時が来た、と思った・・・。
彼女は、深刻な話は電話じゃしない
「今行く。・・・俺は、好きだから・・・お前のこと」
最後の悪あがき。
これくらいで彼女をつなぎ止めておくのは無理だろう
でも彼女に会ったら俺は、言われるままにその要求を受け入れてしまうだろう・・・。
「・・・・・・早く来て。」
それだけ言って、一方的に電話を切られてしまった。
一年ちかく放置していた汚い自転車に、またがり広場に向かう。
目の前はもう駅。
あとはこの、交差点を渉って少し行けば・・・・・・・・・・・・
2006年11月11日朝9時頃
信号が青になり自転車に乗りながら、前に出た瞬間、
横から大型自動車が勢いよく突っ込んできて・・・。
俺が覚えているのは、そこまでだ。
しかし、ここはどこだ?
白いベッドに、薬の臭いが充満していて気持ち悪い部屋、
・・・病院・・かな?
周りで看護師さんらしき人たちが騒いでいる。
3分もしないうちに医院長と数人の医者が来て意味不明なことを言い出した。
「にせんろくねん・・・?」
「そう、2006年ね 今日で45年目です」
そっそんなまさか・・・
俺64歳!?先月19歳になったばっかなのに!!?今ここにいる人の中で一番年上!!!?
どうやら俺は、あれから45年間眠っていたらしい
しかし、体は、歳をとっておらずピチピチの19歳だ。
医者も「これは、超寄現象以上のことです!」と言っていた
あと、1ヵ月寝ていたら、学会に引き渡されていたらしい・・・。
これから1ヶ月半ほどこ、この病院で暮らさなくてはいけないと病院側から言われ
外に出ることすら許されなくなった。
でも、俺には会いたい人がいる。
たとえ、俺のことを想っていなくても・・・
忘れていても・・・
結婚して子供がいても・・・
彼女にだけは、会いたかった・・・。
俺は、病院を抜け出して彼女の実家に向かった、
が しかし、現実は甘くなく
40年も経っていれば地形が変わるのは、当たり前だ
病人服は目立、近くにいた通行人の誰かが
裸足でボロボロになっている俺を警察に通報し、
3時間ほどで病院に連れ戻された。
たった3時間、俺を絶望に追い込むには、十分すぎる。
病院の冷たいベットに寝ながらこの先どうやって生きていけばいいか考えてみた・・・
しかし両親は、すでに他界、ほかに頼れる当てもなければ金も無い。
たとえ別れの言葉でも、あの時車にひかれなければ・・・
それが無理なら何ぜ死なせてくれなかったんだ!
・・・俺は、無駄な時間を過ごしすぎた・・・・・・・。
いくら実年齢が64歳でも肉体精神が19歳の俺には、重すぎる現実
誰も助けてくれない辛さ
溢れ出そうな涙をこらえながら眠りに付いた。
2006年11月12日午後1時前
何事も無く一日が流れもう昼時
「失礼しまーす」
二人の看護師が病室に入る。
「あの、お婆さんまだ居ますね」
今年入ったばかりの新人看護師が窓の外を指差す
その先には、木を囲む鉄パイプの椅子に腰掛けた老婆が独り。
「毎年、この日に必ず来るの、ここが建つ前から通っているそうよ」
ベテランっといった感じの看護師が返した。
「そんな、前から!?」
「何でも恋人を待ってるんですって」
「・・・あの、お婆さんが?」
「えー・・・、なんでもプロポーズするとか・・・」
「ボケてるんじゃないですか?」
散々な言われようだな、この看護師より倍以上生きてるのに。
その時あることに気が付いた
「ここ、駅の近くだったの・・・?」
「そうですよ知らなかったんですか?」
新人が答える。
知らないも何も、それじゃぁここは、昔・・・・・・
「まぁこの病院が建ったの20年前ですし、昔は広場だったそうですから」
えらそうにベテランが語りだす。
「あなたも、もともとは、他の病院に・・・ってちょっと!!」
だがそんなのは、耳に入らない。
全速力で走った、部屋を出て病院内を駆け抜ける
後ろから数人看護師たちが追いかけてきてるのなんて気にしないで
すごい速さで病院の庭に向かう。
あと20メートル・・・・・・・・・
たったそれだけなのに彼女にとどかない・・・。
皮膚が垂れ下がり手足が縮み筋力が落ち髪が白く抜け落ちて・・・・・・・
俺は、倒れた。
あまり自信の無い作品でしたが
見ていただいて嬉しいです。