5、幸せな檻について
開かない部屋で過ごして、4日が経過しようとしていた。
この4日間でわかったことは色々ある。
たとえば、この部屋は「魔法」で保護されているらしく、主であるジーク以外の人間は入れないそうだ。
ジーク以外の人は絶対に入れないの?って聞いたら、誰か会いたい人でもいるの?ノアとか、って返してきたジーク。
表情は笑顔だったけど、何故だかすごく怖い目をしていたから、もうそれ以上は聞くことができなかった。
今回の私の罪に対しての刑罰は、ジークが全面的に面倒をみてくれることになったらしい。
牢であるこの部屋の管理や私への事情聴取など、戴冠式も近いのに色々よくしてくれるジークには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ジークじゃなくても良いと言ったのに「俺が嫌なの?」なんてションボリされれば、何も言えない。
「ひまーひまー」とベットに転がりながら、窓を見つめる。
窓枠に美しい細工がされた大きな窓は、この部屋にぴったりと調和している。
そこからは、城下町がよく見えた。今日は天気もよく、どこまでも空が青く澄んでいて綺麗。
だけど、この窓は実際の外と繋がっているとは限らないのだ。魔法でその景色を見せているだけかもしれない。
一度、窓を割ってみようとして色んなものをぶつけたけど、びくともしなかった。
その頑丈さから明らかに「魔法」が関わっていることがうかがい知れる。
ちなみに、その時のジークのすごく困った顔は今でも忘れられないトラウマだ。
今思い出しても胸が痛くなるほど悲しそうな顔だったなぁ。
部屋には、お風呂やトイレがついていて日常生活には困らない。
食事はジークが持ってくる以外は、気が付けば部屋に用意されているという感じだ。
最初は慣れなくてちょっと怖かったけど、慣れてしまえばとても便利。
だから、私はここ4日、ジーク以外の人と会っていない。
「あぁ、もう、暇すぎてどうしたらいいの… 」
もう、本当にやることがなくて、退屈で仕方がない。
今までの私は、元の世界に戻るために色々と動いてきた。
けど、魔法陣が完成した今、私は何をしたらいいのかわからなくなっている。
文字を読めない私は本も読めない。裁縫なんて時間つぶしでやるには苦しすぎる。
思えば、私には趣味らしい趣味もないんだ。
クローゼットの中には数えきれないほどのドレス。テーブルには、常に数種類のお菓子。
全てジークが持ってきてくれたもの。だけど、すぐに飽きてしまった。
お菓子は色とりどりで綺麗なのだけど、一人で食べても美味しくない。
ドレスは、一人で着るのがとても難しいものばかりで、ストレスが溜まってしまう。
それでもドレスは、せっかく持ってきてくれたんだから、となんとか頑張って一回だけ着てみた。
馬子にも衣装を体現した私の姿を見て、嬉しそうに笑ってくれたジーク。
次はウエディングドレスを俺のために着て、なんてとろけそうな顔で言われた時には、破壊力がすごすぎて息の仕方を忘れそうになった。まさに、究極の殺し文句。
あんな恥ずかしいセリフを平気で言えるジークは、ホストにだってなれちゃうだろう。
あぁ、なんかめちゃめちゃ貢いでしまいそうだよ。
恥ずかしかったといえば、ドレスの後ろの紐を綺麗に結べなかったのを、一つ一つ丁寧に結んでもらったのも恥ずかしかった。
ちらちらと指先が背中に触れ、その度にとてもドキドキしてしまったのを覚えている。
なかなか結んでくれなくて、逆に脱がせようとするジークに何度も「こら!」って怒って、その度に軽くかわされていたんだっけ。
最初の日に言ったように、ジークは毎日会いに来てくれた。
戴冠式も近いから忙しいだろうに、疲れた様子もなくやってきては私の話相手になってくれる。
彼のくれる優しくて甘い時間の中では、元の世界に戻るという目的を忘れてしまいそうになる。
そういえば、今日はまだジークに会っていない。
どうしているのかな、なんて思いながら今までの会話を思い出す。
昔は弱虫で泣き虫だったことや、魔法が結構得意なこと。兄弟は弟が一人で仲は、まぁまぁ良いとか。
そんな他愛のないことを思い出しては、うふふと思わず笑ってしまうほど幸せな気持ちになる。
大切な、大切な宝物を一つ一つしまっている気分だ。
とても素敵な最後の思い出。
この思い出だけで、私はこれからも生きていけるだろう。
たまらなく幸せなこの時間は、一生の宝物だ。
これからも、ずっと。