11、睡魔と私
こちらの世界に来てから3か月が経とうとしていた。
3か月なんてあっという間だった。
早く戻りたいとは思う。でも、このダラダラとした緩い日常も捨てがたい。
時間が止まった私が戻るとしたら体内時間を基準とするから、あの日に帰ることになるとジークが言っていた。
そう、私はあの日に、発表の一週間前に戻ることになるのだ。
地獄への帰還は、できるだけ伸ばしたいと思ってしまうのは仕方ないこと。
庭の時計は正午過ぎ。
もうすぐジークがやってくる時間だ。毎日毎日、本当に飽きもせずよく来てくれるものだと思う。
この世界で私が会えるのは彼だけ。それ以外の人には会ったことはない。禁術で召喚されてしまった異世界人なんて、そう多くの人の目に触れない方がいいのだろう。
それに、私人見知り激しいから、このままでいいや。
王子は顔だけは文句なしに格好いいから、十分に異世界の素敵を堪能している気分だし。
水の中、顔を出しながら漂っていればあくびが次から出てくる。
なんだかここ1週間ほど、とても眠たいのだ。ダラダラしていたからなのかわからないけど、一日中眠たくてどうしようもない。なんだろう、体が動くことを拒否しているのかな。不思議だ。
「ねぇ、マナ、聞いている? 」
「んー… 」
ジークが来ていても上の空で水の中で漂っている私。
不満そうな王子様は噴水の外で「茨姫」について話している。
こちらの世界でもおとぎ話はあるようで「茨姫」は私の世界にもあったものだ。
微妙に内容が違うけど、大体の大筋的なものは一緒であり、今日はそれについて話していたのである。
それにしても眠たい。眠たくて眠たくて仕方ない。
ジークの話は聞こえているんだけど、まったく頭に入ってこない。なんか午後一番の講義を受けている気分だ。眠すぎてよく分からなくなってくる。
…だめだ、まだ昼過ぎだけどこのまま寝てしまおう。
「あのさ、悪いんだけど私すごく眠いの。だから、ジークは帰ってくれる? 」
「やだ。まだ、全然マナの話を聞いていない。マナ、ここのところ眠いってばっかりだ 」
不機嫌であるというのと隠そうとしない表情のジーク。
そんな態度に私は、眠気も一瞬忘れて微笑ましさを感じてしまう。
3か月が経ち、だんだんと打ち解けてきた私たち。
最近ではダダコネという自己主張も見せるようになってきたジーク。
最初はわがままな甘ちゃんと思っていたが、ほぼ毎日会うようになってその印象は変わった。ジークは優しくて、思いやりもある。
ただ、ちょっと自分に自信がないだけだ。
「今日は早く寝て頭すっきりさせて、明日いっぱい話そうね。だから、ごめん 」
「……わかった。じゃあ、明日を楽しみにしているから。絶対だよ 」
「うん、待っていてね。いっぱい話そうね 」
そうしてジークを見送った後、私は静かに目を閉じた。
次に起きたときは、ちゃんと話を聞いてあげよう。
いっぱい聞いてあげて、あの笑顔をいっぱい見よう。
だから、おやすみ。
そうして私はいつもよりも、かなり早い就寝を果たした。
また明日、あの笑顔を見るために、と目を閉じたのだ。
でも、その明日は、違っていた。