第1回:感情のない子
景勝四年、雲渺国は季節の変わり目を迎え、肌を刺すような冷たい北風が吹き荒れていた。どんよりとした暗雲が天空を覆い尽くし、おぼろげな月明かりさえも遮っている。高くそびえる壁と固く閉ざされた門に守られた豪壮な邸宅。その仏間には静かに香の煙がたなびき、回廊を慌ただしく行き交う足音の緊迫感とは対照的に、空間全体を息苦しいほどの沈黙で包み込んでいた。
真っ赤な蝋燭の光に満ちた閨房には、血の匂いと高麗人参の強い香りが漂っている。額に玉のような汗を浮かべた年配の産婆が、震える手で産み落とされたばかりの小さな命を抱きかかえていた。部屋中が、パニックに陥った人々の心音さえ聞こえそうなほど静まり返っている。そう、この世に生を受けた赤子が上げるはずの産声が、一切響かなかったのだ。
濃紺の錦の長袍を身に纏った旦那様が慌てて駆け込んできた。その瞳には三分の疲労と七分の驚愕が入り混じっており、彼は震える声で叫んだ。
「産婆よ!なぜだ……なぜ妻が死に物狂いで、命がけで赤子を産んだというのに、この部屋は墓場のように静まり返っているのだ? 赤子の泣き声はどこだ? まさか……この命は日の光を見る前に天に召されてしまったというのか?」
産婆は愕然として冷たい瓦礫の床に崩れ落ち、地に額を擦りつけながら、恐怖で途切れ途切れの声を絞り出した。
「旦那様、お許しください! 奴婢は……あらゆる手を尽くしました。ですがこの子は、産み落とされた瞬間から死に絶えたように静かなのです。胸の鼓動もなく、息の根もなく、肌は蝋燭のように青白い。恐らく……奥様のお腹の中で既に息絶えていたのでしょう。旦那様ご夫婦の深い愛情を受けるには、あまりにも薄命でございました」
その言葉を聞き、錦の帳が引かれた寝台に横たわる奥様は、蒼白にやつれた顔の目尻から二筋の涙を流し、むせび泣きながら天を恨んだ。
「ああ、天よ! 地よ! 私たち夫婦は一生をかけて徳を積んでまいりましたのに、なぜ造物主はこれほど残酷なのですか。産声を上げる前に、私の愛しい血肉を奪い去るなんて! ああ、哀れな私の娘、あなたが逝ってしまったら、母である私がこの世を生きる意味などどこにあるというの!」
旦那様は愕然として二歩後ずさりした。万の矢に心臓を射抜かれたような痛みが胸を締め付ける。気を取り直した彼は重い足取りで歩み寄り、産婆の手から冷たく小さなその亡骸を抱き取った。立派な大の男の目からこぼれ落ちた涙が、静かな赤子の顔に落ちる。だが、その涙の雫が小さな頬に触れた瞬間、赤子のまつげが微かに動いた。微弱だが規則正しい息遣いが、父親の指先へと思いがけず伝わってきたのだ。
「生きている! この子は生きているぞ!」旦那様は目を丸くして歓喜の声を上げ、その声が静寂の夜を引き裂いた。「夫人よ、見てみろ! 赤子は生きている! やはり天地の神々やご先祖様はお見守りくださっていたのだ! 泣き声一つ上げず、息は糸のように細いが、確かな命の火が灯っている!」
その赤子は、大きな両目をパッチリと開けた。しかしそれは恐ろしいほど静かな瞳だった。赤ん坊特有の無邪気さも、戸惑いや恐怖もなく、ただ風のない秋の湖のように平坦で、深く、そして虚ろに、見えない虚空をじっと見つめていた。
時が経つのは早いもので、芍薬が花を咲かせては散り、真っ白な雪が降り積もっては溶けていった。瞬く間に景勝七年。鬼門から生還したあの日から、子供は三歳になっていた。屋敷は相変わらず繁栄し、使用人たちが慌ただしく立ち働いていたが、その景色の裏には胸を締め付けるような深い哀愁が漂っていた。
牡丹が蕾をほころばせる庭園で、奥様は縁側に寄りかかり、草の上に身じろぎもせず座り込む娘をうつろな目で見つめていた。旦那様の手にある高麗人参茶はとうに冷めきっている。彼は重いため息をつき、その沈黙を破った。
「夫人よ、見てみろ……生まれてから三年、歩き、走れるようになっても、■■■は一体どんな妖怪の生まれ変わりなのだ? 泣かず、笑わず、悲しまず、喜ばず。世間では『七情六欲』こそが人間の本質だというのに、なぜ■■■は感情のない木偶の坊のように、波一つ立たない水面のようなのだ?」
奥様は絹の長手巾で目尻の涙を拭い、極度の悲壮感を帯びた声で言った。
「旦那様、昨日のことを覚えていらっしゃいますか? 暖を取るための炭火の鉢を運んでいた侍女が誤って転び、真っ赤に燃える炭が■■■の手の甲に直接落ちたのです。肉は焦げ、血が滲むほど赤く腫れ上がりました。それなのに……それなのに■■■は悲鳴一つ上げず、顔をしかめることすらしなかった。■■■はただ、その大きくて冷たい瞳で、血の滲む傷口をじっと見つめていたのです。まるでそれが自分の体ではないかのように。……■■■には痛みが分からないのです、旦那様! 痛みという感覚を知らないのです!」
旦那様は椅子の肘掛けを強く握りしめ、額に青筋を立てて一文字ずつ絞り出すように言った。
「造物主の采配には、必ず理由があるはずだ。痛みが分からず、この世の喜怒哀楽を知らぬ者が、果たして人間と言えるだろうか? 私は親でありながら、背筋が凍る思いだ。このような無感情で無知覚な命を抱えて、我が一族の未来はどこへ向かうというのだ?」
「旦那様!」奥様は夫の衣の裾を掴み、泣きじゃくりながら懇願した。「それでも私たちの血肉なのです。どうか、すぐに見捨てないでください。もう少し大きくなれば、■■■の心も開かれ、普通の女の子のように喜んだり悲しんだりできるようになるかもしれません!」
しかし、その儚い希望も、天命の残酷な采配に抗うことはできなかった。
景勝八年の冬。雲渺国全体が骨まで凍るような寒さに包まれ、万物が白い雪の下で凍りついていた。四歳になった子供は、依然として彫像のように静かで、虚ろで、無感情だった。両親の忍耐もついに底を突いた。彼らは密かに、都で最も名高い占い師を呼び寄せた。八卦に精通し、天機を見抜き、陰陽を定まると自称する男である。
薄暗い密室の中で、盲目の占い師は指で卦を弾き、亀の甲羅の上に銅銭を投げながら、古めかしく陰鬱な響きを持つ謎めいた呪文を呟いていた。チャリン、と銅銭が落ち、不気味な音を立てる。占い師は突然言葉を失い、体を小刻みに震わせ、顔面を紙のように蒼白にさせた。
「奇怪なり! 奇怪なり!」占い師はしゃがれた声を上げ、骨ばった指を空中に突き出した。「命理は傍観し、八字は相克し、陰陽は逆転しておる! 老夫は一生をかけて卦を立ててきたが、これほどまでに怨気が天を衝き、人間性が完全に絶え果てた紫微を見たことがない!」
旦那様は慌てて一歩前に進み出ると、手を合わせ跪いた。
「先生の深い見識で、どうかご教示願いたい! 我が家の娘は、生まれながらにして涙もなく、怒りもなく、哀しみもなく、喜びもない。おまけに肉体の痛みすら気に留めぬのです。これは一体、福なのか禍なのか?」
占い師は木製の机にキセルを激しく叩きつけ、怒鳴った。
「どこに求める福があるというのか? これは『大凶』である! この子は九泉の底から現世へとやって来た業の種だ! 元より凡人の魂など宿ってはいない。修羅の地獄から遣わされた悪鬼であり、怨気を借りて形を成し、肉体を借りて宿っているに過ぎん。六欲七情を持たず、万年の氷よりも冷たい心を持つこの者は、成長すれば必ずや冷酷非情な大悪党となるだろう」
それを聞いた奥様は腰を抜かし、敷物の上に崩れ落ちた。
「嘘……そんなはずはありません! ■■■は、私がお腹を痛めて産んだ子です……」
「夫人よ、情に流されるな!」占い師は厳しい声で遮った。「天機は既に示された、無視することはできん。この子が成長すれば、必ずや災いを撒き散らし、お前たちの百年続く家業を一瞬にして灰燼に帰し、家を没落させ、骨肉の争いを引き起こすだろう。その無感情さこそが、この世のあらゆる倫理道徳を切り裂く、最も鋭利な屠殺人の刃なのだ!」
「では……どうすればよいのですか?」旦那様は額に冷や汗をかき、震えながら尋ねた。「どうか先生、慈悲を垂れ、この事態を収束させるための計略をお授けください!」
占い師は立ち上がり、道着の袖を振り払うと、死刑宣告のように冷酷な一言を放った。
「家業を守り、命を長らえたくば、道は一つ。情を断ち、義を絶つことだ! 一つ、その命を奪い、魂を冥界へ送り返すこと。二つ、この屋敷から何百里も離れた、瘴気が漂う深い森や、草の枯れ果てた荒野に捨て置くことだ。名前や身分を証明する品は一切残してはならん。そうして初めて因果は断ち切れ、悪業は消え去るのだ!」
その夜、一台の密閉された馬車が逃げるように屋敷を飛び出し、分厚い雪を踏みしめながら、冷え切った国境の荒野へと真っ直ぐに向かっていた。馬車の中で奥様はしゃくり上げながら、粗末な綿入れを着せられた小さな体を抱きしめていた。四歳になる子供は、涙を流す母親を平然とした目で見つめ、恨み言も言わず、命乞いもしなかった。
猿の鳴き声や鬼の泣き声のように風が吹き荒れる荒涼とした野原に着くと、旦那様は自らの手で子供を抱き上げ、痩せこけた枯れ木と石ころの傍らに下ろした。
「因縁の相手よ……今生で私とお前には縁があったが、運命は結ばれなかった。父親が残酷だと恨むな。ただ、悪鬼の命を背負って生まれ、俗世に身を置けなかったお前自身の運命を恨むがいい。これからは、生きるも死ぬも天の思し召しだ。私とお前は、親子の情を完全に断ち切る!」
そう言うと、旦那様は背を向け、足早に馬車へと乗り込んだ。一度も振り返ることはなかった。風を引き裂く鞭の音が響き、馬車は真っ白な雪のカーテンの向こうへと消えていく。広大な天地の間に、小さな姿だけがポツンと取り残された。名もなく、年齢もなく、ルーツもない。子供はそこに座り、吹き付ける冷たい風に身を任せ、雪に埋もれていく車輪の跡を静かな瞳で見つめていた。恐れも知らず、寒さも知らず、ただ自然のパラドックスのように、静かにそこに存在していた。
餓えと骨まで凍る寒さのせいで、その小さな命の生は幕を閉じるかに思われた。しかし、森羅万象を包み込む天の意志は、どれほど残酷であっても、常に奇跡のような逃げ道を一つ残しておくものだ。
半刻(約一時間)後。ボロボロの蓑を羽織り、背中の曲がった痩せこけた農婦のおばあさんが、枯れ枝を拾おうと身を屈めながら歩いていた。彼女は、雪に半分埋もれた小さな綿の塊を見て、ふと立ち止まった。驚いた彼女が近づき、冷たい雪を払いのけると、それが子供であることに気づき愕然とした。
「南無阿弥陀仏! ああ、天よ地よ。一体どんな狼のような心を持った人間が、こんな人里離れた深い山奥に、小さな命を捨てることができるというのかい?」老婆はそう声を上げ、慌てて一番外側の蓑を脱ぎ、冷え切った小さな体を包み込んだ。
彼女は子供が既に死んでいると思った。だが、その大きく黒い瞳が開いて自分を見つめた時、老婆は驚愕した。泣いて抵抗することも、腹が減ったと呻くこともなく、ただ底知れぬほど深い眼差しで静かに彼女を見つめていたのだ。
「本当によく生きていたねえ、可哀想に」老婆は涙ぐみ、その小さな体を強く抱きしめ、老いた自分の温もりを分け与えた。「世間がお前を見捨てても、このおばあちゃんは、どれほど貧しく苦しくても、欠けた茶碗に玄米が数粒しかなくても、絶対にお前を死なせたりはしないよ。お前には名前もないし、身の証もないんだね。じゃあ、私が名前をつけてあげよう……」
彼女はどんよりとした灰色の空を見上げ、そして、薄汚れた荒野の中で塵一つなく真っ白な子供の肌を見つめ、一つの詩を詠んだ。
「心は悠々たる白雲の如く、骨は泥中にあっても白玉の如く輝く。
今日から、お前は私の『林』の姓を名乗りなさい。名は『婉白』。林婉白。『婉』はしなやかで優しく、気品があること。『白』は塵一つない純潔さ。世間がどれほどお前を汚そうとも、お前は真っ白で清らかな蓮の花のままでおいで」
こうして、林婉白は、優しく慈愛に満ちた育ての祖母の元で、貧しくも愛情に満ちた生活を始めたのである。
長い年月が瞬く間に過ぎ去り、気がつけば景勝十九年。林婉白は今年で十五歳になった。彼女は成長し、野生の蘭のように静かで華奢な少女へと姿を変えていた。長く黒い髪は、装飾の削られていない質素な木の簪で頭頂部にすっきりと纏められている。色白の肌と、大きくて黒い瞳は常に静けさを保ち、怒りや恨みの雲一つ浮かぶことはなかった。彼女は勤勉で几帳面に、毎日の食事から水汲み、薪割りや野菜摘みまでこなし、老婆に孝行を尽くした。
しかし、無感情という病は、消し去ることのできない呪いのように彼女にまとわりついていた。極度の飢えと貧しさに直面しても、老婆が病に倒れ寝たきりになっても、林婉白は一滴の涙も流せず、新年を迎えても微笑むことはできなかった。ただ機械のように、最も合理的かつ完璧に、すべての仕事をこなすことしか知らなかったのだ。
そして、生老病死は人の世の常である。その年の秋、黄色い落ち葉が茅葺き屋根を覆い尽くした頃、農婦である老婆は長年の病と貧困との闘いの末に力尽きた。軋む竹の寝台の上で、彼女の呼吸はぜいぜいと荒く、弱々しかった。彼女は婉白の細く冷たい手を握り、濁った瞳に未練と悲哀をいっぱいに浮かべていた。
「婉白……おばあちゃんはもう、遠いところへ行かなきゃならない。九泉の底で、ご先祖様たちに会うんだよ」彼女の声は途切れ途切れで、かすれていた。「十一年が過ぎたけれど、お前が奇妙な病を抱えていて、心の中が空っぽで、喜怒哀楽を持たないことは分かっている。だけどね、婉白。心が痛みを知らなくても、目尻が涙を知らなくても、お前が善良な人間であることだけは忘れてはいけないよ。この浮世は計り知れないほど危険で、人の心は深淵のように深い。私がいなくなって、お前が一人ぼっちになったら、自分の身は自分で守るんだよ。他人の言葉を簡単に信じてはいけない……」
林婉白は寝台の傍らに跪き、大きな瞳で老婆を見つめていた。その顔には、悲しみもパニックも全く浮かんでいない。彼女は抑揚のない、平坦な声で言った。
「おばあちゃん、安心して休んで。水汲み、薬煎じ、薪割り、婉白がやるから。心配いらない」
その言葉を聞いた老婆は、ただ涙を流し、息を詰まらせて嗚咽するしかなかった。「馬鹿な子だね……私が言いたいのは……それは……」言葉を言い終える前に、しわくちゃの手がだらりと垂れ下がり、彼女は最後の息を引き取った。悲劇に満ちたこの世を去り、林婉白を人の世にたった一人残して。
彼女は自らの手で穴を掘り、小屋の裏山に老婆を埋葬した。遺体を土で覆い隠す際も、悲痛な泣き声は一切なく、ただ色褪せた葉を揺らして吹き抜ける秋風の音だけが響いていた。
葬儀から数日が過ぎた。質素な生活を維持するため、林婉白はいつものように籠を背負って山へ薪割りに向かっていた。斧を振り下ろして木を割る彼女の額には汗が滲んでいたが、その表情は依然として平然とし、無感情だった。
静寂に包まれた荒れ果てた森の中、どこからともなく灰色の絹の衣を着た老人が現れた。まばらな髭と髪を持ち、細めた目をせわしなく動かすその姿は、狡猾さと悪賢さを漂わせている。老人は竹の杖をついて彼女に近づき、耳に蜜を注ぎ込むような甘い声で言った。
「おやまあ、娘さん、実に働き者だね。容姿もこれほど美しく上品だというのに、どうして男のやるような下等で辛い仕事をして、泥水にまみれて苦労しているんだい?」
林婉白は手を止め、静かな瞳で老人を見つめた。波一つ立たない平坦な声で答える。
「薪を拾う。米に換える。飢えは来ない、生き続ける」
老人は髭を撫で、極めて狡猾な笑みを浮かべ、いかにも哀れむような態度をとった。
「実に可哀想に! 私はね、町の大金持ちの屋敷の執事なんだよ。今、主人が香料を分類したり、香草を仕分けたりする手伝いをしてくれる、慎重で働き者の娘を探していてね。暖かく快適な部屋の中でのんびりできる仕事だから、雨風にさらされることもない。毎月もらえる給料で大きな米俵が何十袋も買えるし、ご馳走だって食べきれないほどある。娘さんの勤勉な性格と清潔な容姿を見れば、この仕事にぴったりだと思ったんだ。どうだい、私と一緒に働きに来る気はないかね?」
林婉白の心は元より静寂であり、喜怒哀楽を持たず、ましてや人間の奥深く偽りに満ちた腹黒さなど理解できるはずもなかった。臨終の際に老婆が言い残した、世間の危険についての忠告も、彼女にとってはただの空虚な音の羅列に過ぎず、その無感情な精神に警戒心を呼び起こすことはできなかった。彼女はただ単純に分析したのだ。「楽な仕事、たくさんの米に換えられる、飢えない」と。
「分かった。行く」林婉白は薪割りの斧を置き、いとも簡単に頷いた。あまりにも哀れなほどの軽信であった。
老人の口角が勝ち誇ったように上がり、その目には強欲さと悪意があからさまに浮かんでいた。彼は彼女を森の奥深く、曲がりくねった暗い獣道へと連れ出した。そして、放棄された休憩所に着いた途端、茂みの中から刀や剣を持った屈強な男たちが飛び出してきた。真っ黒な麻袋が頭から被せられる。悲痛な悲鳴も、抵抗して暴れることも、パニックを起こすこともなく、林婉白はそのまま闇に飲み込まれ、気を失わされ、馬車に乗せられて何百里も遠くへ運ばれ、身分の低い奴婢(奴隷)として売り飛ばされたのだった。
罠に満ちた人の世、一度の過ちが彼女の運命を果てしない彼方へと押し流してしまった。
暗く冷たい空間。乾燥した藁の黴臭い匂いと、母屋から漂ってくる微かなお香の香りが入り混じっている。
林婉白はふと目を覚ました。
大きくて黒い瞳を数回瞬きさせ、時が刻み込まれた灰色の瓦屋根の木張りの天井を静かに見つめた。静まり返った空間には、粗末な長板の上で熟睡している他の数人の侍女たちの規則正しい寝息だけが聞こえる。彼女は静かに起き上がった。その動きは滑らかで、慎重だった。ほどけた長い黒髪を撫でつけ、見慣れた模様のない木の簪で頭頂部にすっきりと纏め上げる。
ボロボロの障子紙の隙間から隙間風が吹き込み、彼女の白い肌に触れた。だが、林婉白は身震いすることも、息を呑むこともなかった。彼女にとって万物とは、客観的に存在する現象に過ぎず、感情を少しも揺さぶるものではない。先ほどまで、誕生し、捨てられ、老婆と出会い、そして騙されてこの場所に売られるまでの全人生が長い夢として蘇っていたが……それはまるで、傍観者として古い本を読み返しているかのように彼女の心の中を通り過ぎただけで、少しの悲しみや痛恨をもたらすことはなかった。
陳家の屋敷の、下層奴婢専用の狭い寝室に、淡い月明かりが差し込んでいる。彼女は無表情な視線を巡らせ、自分の傍らにきれいに畳まれた灰色の着物や、拭き掃除で磨り減った水甕や木桶を見つめた。十七歳になった少女の脳裏に、冷たく淡い思考がよぎる。
――ああ、そうだった。私がこの陳家の屋敷で奴婢となってから、もう二年が経つのか。




