#05:文化祭の朝
高校生編の短編連作です。
2014年 秋
音楽室に裏口から入ると、朝の空気がまだ少し冷たかった。
昨日の声の残り香が、薄く漂っている。
軽音楽部の集合時間より少し早く着いた。
フルートケースを持ったまま、廊下を静かに歩く。
「陽子、おはよー。今日は楽しもうね」
その気配が、胸の奥に淡い色を付けた。
文化祭の開始まで、皆で軽く音を揃えていく。
少し遅れてきた人にも、自然と笑い声が向けられる。
「朝は流しだけでいいよ。
本番でバテないようにね」
部長の声が、音楽室の空気を少し温かくした。
リハーサルが始まる。
音を合わせるというより、空気を確かめるような時間。
複雑な音がゆっくり重なり、彩っていく。
息をひとつ置いたとき、
「陽子、いつもよりイケてるじゃん。」
不意に声をかけられ、少しだけ瞬きをした。
自分がどう見えているのか、よく分からなかった。
音楽室の空気がまた少し温かくなった気がする。
文化祭の曲は、ただ楽しく吹けた。
指が自然に踊る。
「そろそろ時間だね。片付けして体育館に行こう」
皆がのんびりと後片付けをしながら、体育館へ向かう。
「陽子も一緒にクレープ食べようよ」
「……うん」
小さく返事をして、声の方に向かった。
次話:#06:秋晴れの残り香
2026/1/22 20:00に更新します




