第0話 プロローグ
「ラブアンドピースとかよく言うじゃん?でも、たとえ誰にどれだけ愛されても、自分が満たされるとは限らないし、たとえどれだけ世界が平和でも、自分が平和じゃないと意味がないし。だから、ラブアンドピースな世界になったとしても、幸せになれるわけじゃないんだよねー。ま、幸せって概念は所詮妄想でしかないんだけどさ」
無我は頭に浮かんだこの台詞を否定することはできなかった。だが、それでも今の無我は確かに彼女の反転アンチだ。BOOKOFFで流れてきた彼女の歌声に耳を塞ぎ、CD BOXを一瞥したその時だった。
「ちょっと、すみません。お宅、今バックにCD入れましたよね?それ、俗に言う万引きなんですけど、自覚あります?」
無我の視界に入ったのは、ありふれた黒ジャンバーを身に纏ったおっさんだった。目力を抜くことで逆に圧をかけると、すぐさま背を向けてスタコラサッサと去っていく。
「あーバックに入れたところ、スマホで録画しちゃったんだよなーどうしよっかなー」
ぴくりと停止したおっさんのバックからLOVELESS PEACELESSの新曲「NEVER WAS THERE」を取り出し、元の棚に戻した。
「もう悪いことはよしてくださいよ。誰かが見てるかもしれないんで」