vol.93 ときめき☆パラダイス ――魂を捧げたアイドルたち
『ハッピー☆ジャンプ』の多幸感がドームを包む中、祭典は一切の躊躇なく、さらなるカオスを投下した。
「さあ、次の混色ユニットは、このメンバーだァッ!」
アナウンスと共にステージに現れたのは、誰もが目を疑う、悪夢か奇跡か判別のつかない布陣だった。
Dream Jumpsから正統派アイドルのももとあい。
Synaptic Driveからユージ。
Midnight Verdictから女王けいと。
そして――ソロの絶対王者、一条零。
「え、ユージさん!?」
「けいと様まで!?」
「一条零が混色ユニットに!?何が始まるんだ…!?」
会場のざわめきは最高潮に達する。
ももとあいがプロの笑顔で手を振る隣で、ユージはわずかに肩を強ばらせ、視線を泳がせていた。
ロックスピリットを背負う彼にとって、このピンク色の世界は確かに居心地が悪い。
だが、深呼吸をひとつ。彼はマイクを握り直し、照れ笑いを浮かべながら拳を高く掲げた。
「ドーム!笑っていこうぜ!
ロックもアイドルも、今日だけは全部まとめてブチ上げだ!」
けいとは静かに眉をひそめ、一条零は相変わらずの無表情で虚空を見つめている。
この、協調性という概念が存在しないかのようなメンバーが、一体何を披露するのか。
そして、流れ始めたイントロに、会場は三度、絶叫と爆笑の渦に叩き込まれた。
Dream Jumpsの王道アイドルソング、『ときめき☆パラダイス』!
【恋するハートは ドキドキ止まらない
君に届けたい この気持ち】
ももとあいが完璧なアイドルスマイルとダンスでステージを輝かせる。
背後のユージは、ぎこちないステップでタイミングを探りながらも、客席に向けて手拍子を煽る。「クラップ!クラップ!」
居辛さを隠しきれない顔に、それでも不器用な笑みを乗せ、歌い出す声はいつものロックの芯を残しながら、必死にポップの明るさへ寄せていく。
【君のことだけを 毎日考えてる
ハートにズッキュン! 君がナンバーワン!】
ユージが覚悟を決めた。
「ハートに、ズッキュン!」
――腹の底からのロックボイスを、あえて軽やかなノリでシャウト。
拳でハートマークを作り、渾身のウインク(ちょっと不器用)。
その真剣さと場違いな愛らしさのギャップに、会場は歓声と笑いで弾けた。
SNSは「#ユージアイドルデビュー」で瞬く間にサーバーが重くなる。
【ふわふわコットンキャンディみたいな恋
きっと叶うよ 信じてるの】
悪夢は――いや、奇跡は連鎖した。
女王けいとが歌い出し、歌詞に合わせて完璧な角度の「ぶりっこポーズ」。
クールな彼女の丁寧な可愛さは、むしろ破壊力倍増。
背後からユージが「ケイト、イェー!」と煽り、軽くエアギターを刻んでリズムを太らせる。
ロック流の合いの手が、王道アイドルの糖度を絶妙に引き締める。
【見つめ合うたびに 胸がキュンとなるの
私だけの王子様、どこにいるの?】
極めつけは、一条零だ。
表情ひとつ動かさず、寸分の狂いもなく「ぶりっこポーズ」を機械のように再現。
無の表情と極甘ポーズの究極ギャップ。
ユージはその横でマイクを客席へ突き出し、
「王子様どこだー!右!左!声出せー!」
とコールを回し、ポップの海にロックの波を立てていく。
会場は呼吸困難寸前の大爆笑と大合唱。
シュールと熱狂が同居する奇観だった。
【ときめき☆パラダイス! 夢のステージへ!
みんなで歌おう ハッピーになろう!】
ももとあいの完璧なダンス、けいとのぎこちないぶりっこ、一条零の無表情ぶりっこ、そして――
ユージの全力ヘドバン混じりのアイドルステップ、拳で刻む手拍子、息の合ったコール&レスポンス。
全てがバラバラなのに、なぜか奇跡的な一体感を生み出している。
これぞ、カオスの化学反応。伝説のステージだった。
「ユージさんの全力ノリ、永久保存版確定www」
「けいと様のぶりっこで無事死亡…尊い…」
「一条零のぶりっこは戦略兵器だろ!腹筋が崩壊した!」
「この組み合わせ考えた人、悪魔か天才かどっちかだ!」
バックステージ。
Synaptic Driveのけんたろうは、涙を拭いながら爆笑していた。
「ユージ、すごいね!あのコール回し、いつ練習したの!?
ステップも、ちゃんと可愛かったぞ!」
ユージのマネージャー、佐久良綾音は半ば呆れ、半ば感心しきりだ。
「ユージくんのブランドイメージが……いや、広がってる!
ロックでアイドルも乗りこなすとか、ずるいでしょ…!」
Midnight Verdictのメンバーは、自分たちの女王のまさかの姿に、度肝を抜かれていた。
「あんな可愛いけいと、初めて見た!」
と、あやは笑いすぎて椅子から転げ落ちそうだ。
「ユージもノリが良すぎ!最高!」
かおりは、ただ一言、静かに呟いた。
「…世界は、広いな…」
こはるは、ふわふわと笑いながら言う。
「みんな、可愛いね!楽しそう!」
一方、VIP席でこのステージを見ていた真壁は、腕を組み、満足げに頷いていた。
彼の隣にいるべき一条零は、今、ステージで「ぶりっこ」をしている。
「フフ…零も、なかなか面白いことをしてくれる。
あれも彼女の『表現』の一つか。
ロックの火まで混ざって、なお光る…やはり、底が知れない女だ」
真壁の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「STARLIGHT SYMPHONY」は、もはや音楽の祭典という枠を超え、予測不能なエンターテイメントの奔流へと変貌していた。
次にどんな奇跡が生まれるのか、会場の誰もが目を離せずにいた。




