vol.92 ハッピー☆ジャンプ!――うっかり天使の奇跡
「STARLIGHT SYMPHONY!みんな、息してるかァ!?」
配信ブースでYouTuberのセブ直山が絶叫する。
「前半戦、マジで伝説だろ!
一条零の静寂で、会場ごと魂抜かれたよな!?
だがな!祭りはまだ終わらない!
ここからは後半戦、お楽しみの“混色ドリームユニット”だァッ!」
一条零が残した深淵のような静寂。
その荘厳な空気を、次の瞬間、世界が反転するような眩い光と、弾けるソーダの泡のようなシンセサウンドが打ち破った。
ステージはパステルカラーの照明に包まれ、そこに現れたのは、まさに“ハッピーオーラ”の化身たち!
Dream Jumpsからめぐみ、ゆず、りお。
そしてMidnight Verdictからひなたとこはるが合流。
予測不能なユニットに、会場は驚きと歓喜のどよめきに包まれる。
「みんな、ちゃんとハッピーになってる~!?」
めぐみが太陽のような笑顔で叫ぶ。
「今日は、特別なユニットで、皆さんに最高の笑顔を届けます!いくよー!」
ゆずとりおも元気いっぱいに続く。
「ミドヴァ代表、ひなただよー!こはると一緒に暴れるから、よろしくね!」
ひなたが小悪魔ウインクを飛ばす。
「こはるだよー!」
天使のようにふんわりと微笑む。
「最後まで楽しんでいってねー!」
まさかの5人組が披露するのは、Dream Jumpsの代表曲!
「いくよー!『ハッピー☆ジャンプ』!」
キラキラしたイントロが、ドームを巨大なテーマパークへと変える。
5人は息の合った、最高にキュートなダンスでステージを彩る。
【つまづいたって 転んだってへっちゃらさ 立ち上がれば 虹がかかる空】
めぐみの歌声が、澄み渡る青空のように会場に広がる。普段クールなひなたも完璧なアイドルスマイルで踊り、そのプロ意識の高さで観客を魅了した。
ゆずがほほえみと共に続く。
【涙の数だけ 強くなれるの 信じる気持ちが 勇気をくれる】
りおは軽やかな動きで、身体いっぱいに歌う。
【どんな悩みも 吹き飛ばしちゃえ! 笑顔ひとつで 世界は変わる】
ひなた、リズムに合わせてジャンプ!
【さぁ、手をつなごう!高くジャンプ! 空まで届け 私たちの歌声』
ひなたが元気いっぱいに歌いながら、観客に手を振る。
その横で、こはるがちょっと違う振り付けをしてしまう。
しかし、その天然っぷりが逆に可愛らしく、会場のファンからは
「こはるちゃーん!」「可愛い!」
と温かい声援が上がる。
【キラキラの夢 探しに行こうよ 希望の光 追いかけて】
こはるは、自分のミスに気づかず、天使のような笑顔で歌い続けている。
【さぁ、手をつなごう!高くジャンプ! 空まで届け 私たちの歌声】
その時、この日一番の奇跡が起きた。
サビのクライマックス、5人が一斉にジャンプしながらポーズを決める、
その一番の見せ場で――こはるが一人だけ、見事に左右逆の動きをしてしまったのだ!
しかし、彼女は自分のミスに全く気づいていない。
それどころか、「私、ちゃんと踊れてるよ!」とでも言うように、世界で一番幸せそうな、一点の曇りもない天使の笑顔をカメラに向けている。
その瞬間、隣で踊っていたひなたが、一瞬だけ小悪魔のようにニヤリと笑い、こはるのミスを帳消しにするほどキレのある、大きなジャンプを見せた。
すかさずめぐみが、まるで母親のように優しくこはるの背中に触れ、笑顔で正しいポジションへと導く。
計算された演出よりも遥かに温かく、愛おしい一連の流れ。
観客席からは、割れんばかりの「こはるちゃーん!」という声援と、温かい笑いが爆発した。
【ハッピー☆ジャンプ! みんなで一緒に! 最高の笑顔で 飛び上がろう! 】
【ハッピー☆ジャンプ! 心躍らせて! 未来へ向かって 輝くんだ!】
【雨上がりの空に 架かる虹のように 色とりどりの夢 叶えよう】
不完全さすらも魅力に変える、魔法のようなステージ。
5人が放つ多幸感は、会場の隅々まで満たしていった。
「混色ユニット尊すぎる…!Dream Jumpsもミドヴァも神!」
「こはるちゃん振り付け完全ミスってるのに、むしろ正解に見えるのなんでwww 天使かよ!」
「ひなたちゃんのアイドルダンス完璧!からの、こはるちゃんへのフォロー!プロの仕事!」
バックステージ。Synaptic Driveのユージは、モニターを見て腹を抱えていた。
「おいおい、なんだアレは!あいつ、ある意味最強じゃねぇか!
ステージであんな堂々と間違えるやつ、見たことねぇぞ!」
けんたろうも、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ…すごいな。あのミスは、音楽で言うところの計算外の不協和音だ。
でも、全体の調和を壊すどころか、新しい魅力を生み出してる…。
観客の笑顔が、その証明だね」
Midnight Verdictの控え室も、和やかな空気に包まれていた。
「あはは!こはるったら、またやっちゃってる!
でも、可愛いからオールオッケー!」
あやが手を叩いて笑う。
けいとは、いつものクールな表情の中に、確かな楽しそうな色を浮かべていた。
「こはるの魅力は、あの予測不能なところ。
ひなたも、本当に楽しそうで何よりだわ」
そして、会場のVIP席。
一条零は、静かにそのパフォーマンスを解析していた。
彼女の隣で、真壁が愉しそうに口を開く。
「どうだ、零。美しいだろう?
完璧な芸術は人を畏怖させるが、愛らしい欠落は人を笑顔にする。
どちらも、人の心を動かす力だ」
一条零は、真壁の言葉にすぐには答えなかった。
彼女の瞳は、ミスをしてもなお愛され、輝きを増すこはるの姿と、それによって生まれる会場の一体感を、ただ静かに見つめている。
「……不完全さ。
それが、他者の愛を受け入れるための『余白』。
そういう法則もあるのですね」
彼女の視線が、ふと、バックステージモニターに一瞬映った「Synaptic Drive」のロゴへと移る。
そして、まるで自分自身に言い聞かせるように、深淵を覗き込むような声で、静かに呟いた。
「けれど……孤独な才能が生む音は、違う」
その声には、憐れみも同情もない。
ただ、絶対的な真理を見つめる者の、冷徹な響きがあった。
「あれは、誰かに愛されるための音ではない。…ただ、自らを喰らうだけ」
真壁は、その言葉が誰を指すのかを問うことはしなかった。
ただ、一条零という存在が、今この瞬間も、世界のあらゆる音を解析し、その本質と行く末を見通していることに、改めて畏怖の念を抱いた。
セブ直山が、興奮冷めやらぬ様子でカメラにウィンクした。
「さあ、星の祭典はまだまだこれからだ!
次のサプライズに備えろよ、みんな酒も水分も補給だ!」
祭典は、多様な輝きを放ちながら、誰も予測できない未来へと、その歩みを加速させていくのだった。




