vol.88 ミラクル・ステップ!――キラめく夜のシンフォニー
ドームを埋め尽くす数万のペンライトが、巨大な生き物のようにうねっていた。
国内最大級の音楽フェス「STARLIGHT SYMPHONY」。
その名の通り、きらめく星々が次々とステージに上がり、会場はすでに灼熱の坩堝と化している。
そして、いよいよその時が来た。
全ての照明が落ち、一瞬の静寂がドームを支配する。
次の瞬間、ステージに放たれた一筋の光がレーザーとなって客席を薙ぎ払い、爆発的な歓声が沸き起こった。
ポップ界の希望、Dream Jumpsの登場だ。
光ファイバーが織り込まれた未来的な衣装が、彼女たちの動きに合わせて淡く発光している。
リーダーのめぐみがマイクを握り、その最高の笑顔が大スクリーンに映し出された。
「皆さん!『STARLIGHT SYMPHONY』へようこそ!
私たちの歌で、もっともっと、盛り上がっていきましょう!」
割れんばかりの歓声を引き裂き、聴く者の心を一瞬で掴む、キラキラとしたシンセサイザーのイントロが鳴り響く。
彼女たちの最新ヒットナンバー、『ミラクル・ステップ!』だ。
めぐみ:
「見上げた空に 瞬く星たち
願いを込めて 走り出すのさ
迷いも不安も 脱ぎ捨てて
新しい自分に出会う ミラクル・ステップ!」
ピンクとブルーの光線が交差し、彼女のシルエットが客席に投射される。
手の先、脚の先、しなやかで鋭いライン。
めぐみが一歩踏み出すたび、グリッターが空中に舞う。
その粒がライトできらめいて、ステージ全体が星雲のようだ。
カメラが右にパン。元気いっぱいのゆずがジャンピングステップ、シューズの底がステージをパッ、パッと鳴らす。声ははじけるようにまっすぐ。
ゆず:
「昨日までの涙は キラキラのスパイス
前を向いて 踏み出せば ほら、
新しい世界が 広がってる!」
彼女の背後、オーディエンスが映り込む。
数えきれないペンライトが青から黄色に切り替わり、客席から手拍子が起こる——
ステージが会場そのものと一体化していく。
ズームイン、左手前。
りおは真っ直ぐ観客を見据えて、凛とした表情でマイクを口元に寄せる。
りお:
「どんな壁も 乗り越えてみせる
信じる気持ちが 夢を叶えるの」
りおの拳が静かに胸を打つ。
その仕草に客席の女の子が真似して拳を掲げる。
隊列がスライドし、ももがふわりと回転してセンターを奪う。
ライトの輪が彼女を包み、金色の髪飾りがくるりと弧を描いて光る。
もも:
「きらめく汗も 最高の証
もっと高く 飛べるはずさ」
息が白くこぼれる。
その一瞬、会場全体が息を呑んだように静止し、
あいがステージ端から勢いよく駆けこみ、
両腕を大きく上げて、締めくくる。
あい:
「私たちだけのステージ 作ろう
みんなで描く未来へ レッツ・ゴー!」
カメラは五人をワイドショットで捉える。
一糸乱れぬ連携で中央に集まり、熱い息を合わせる。
足元でリズムを取り、ひときわ高くジャンプ——
全員:
「ミラクル・ステップ! 夢の向こうへ
輝く光目指して 飛び出そう!
ミラクル・ステップ! 君と一緒なら
どんな困難も 乗り越えられる!」
五人が一直線に伸び上がり、跳躍の瞬間、照明は一斉にブリッジし、ステージから銀テープが宙を舞う。
カメラが俯瞰に切り替わり、五人を取り巻くようにLEDで星の道が浮かび上がる。
(1番終了・間奏へ)
ステージ全体が一瞬蒼白く染まり、五人がそれぞれ決めのポーズを残したまま、Cメロへの静かなブリッジ。
観客のペンライトが波のように揺れ、ステージ後方ではLEDが夜空の星座を描き出していく。
軽快なシンセのフレーズが再び高まると、2番が始まる。
めぐみがマイクを手に、メンバーとアイコンタクトを取りながらリズムを刻む――
その間、カメラは客席のリアクションや、メンバーの笑顔・真剣な表情を細かく切り替えて映し出す。
<2番のサビ> 振り付けはさらにダイナミックになり、五人が大きくフォーメーションを入れ替える。
息の合った動き、加速するステップ。
観客もコールや手拍子をそろえ、会場の一体感は最高潮に――
(ライブの映像演出では、ここで歌詞テロップやクローズアップが切り替わる。
スクリーンではメンバーの歴代の思い出映像や、ライブの裏側の様子がインサートされる…)
曲は、けして止まらない。
2番の言葉は、観客それぞれの心に響いているように、
歌詞の全てが明確になくても、“未来に手を伸ばす”Dream Jumpsの姿そのものが、次の希望を歌い上げている――
アウトロ。
アップテンポなリズムに合わせて円形に集まる五人。額や首筋に汗が光る。
花びらのようにフォーメーションを変えながら、視線を交わし、笑みを交わし合う。
これまでに積み重ねた信頼と一体感が、ほんの数十秒に凝縮されている。
ラスト、中央に集まり、両手を高く掲げ、ピタリと止まる。ライトに照らされた涙と笑顔。
——ブレイク、そして静寂。
0.5秒の止め、
一拍——
次の瞬間、割れんばかりの大歓声。歓声が波となり、少女たちを包みこむ。
カメラは観客席のアップを抜き、子供も大人も泣きながら笑っている。
♪ ♪ ♪
「はぁっ…!はぁ…!」
割れるような歓声に背中を押されるようにステージ袖にはけてきた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、ゆずがめぐみに抱きついた。
「やった…!やったね、めぐみちゃん!」
「うん、お疲れ様。みんな、最高のパフォーマンスだったよ」
めぐみは優しく背中を叩きながらも、その瞳はすでに次のステージを見据えている。
「でも、りお。2番のサビ、フォーメーションへの入りが0.5秒遅れた。
後の反省会でしっかり修正するからね」
「オッケー!」
りおは滴る汗を拭いながら、真剣な顔で頷いた。
達成感と安堵感、そして決して尽きることのない渇望。
ステージを降りた彼女たちもまた、戦い続ける表現者だった。
♪ ♪ ♪
バックステージのモニター前で、Synaptic Driveのユージが腕を組み、思わず口笛を吹いた。
「…たいしたもんだ。デビューしたての頃とは、まるで別人だな」
その声には、もはや皮肉の色はない。
同じステージに立つ者としての、率直な称賛だった。
隣で、けんたろうが夢見るような目でモニターを見つめている。
「…すごい。光の粒子の一つ一つが、音楽になってた。キラキラしてた…」
彼はうっとりとした表情で、ぽつりと呟いた。
「僕も、ああいう曲作ってみたいな。
光が弾けて、心が躍るようなやつ…」
その言葉に、ユージは心底呆れたという顔でけんたろうを見た。
「はぁ!?お前が作ったら、キラキラじゃなくて、脳がショートするレベルのギラギラした閃光になるに決まってんだろ。
やめとけ、ファンの心臓に悪い」
「そうかなぁ?」
純粋に首を傾げるけんたろうに、ユージは頭をガシガシと掻きながら、ニヤリと笑った。
「キラキラした光は、あいつらに任せときゃいいんだよ」
ユージはモニターの中のアイドルたちから視線を外し、けんたろうの肩を強く叩いた。
「さあ、次は俺たちの番だ。
俺たちは俺たちの音を、魂を揺さぶるギラついた閃光を、あいつらに見せつけてやろうぜ」
「うん!」
けんたろうが力強く頷く。
「いくぜっ!けんたろう!」
二人は、ファンの待つ光の中へ。 祭典の熱狂は、まだ終わらない。




