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vol.86 祭典は燃え上がる

【Youtuber・セブ直山の配信】

「うぉぉぉぉぉ!来た来た来たァァァ!始まったぞオマエらァ!」


 都内某所の配信部屋。音楽系Youtuberのセブ直山は、ヘッドホンをかけたまま興奮のあまり椅子から跳ね上がり、カメラに顔を食いしばるほど近づけて絶叫していた。

 彼の背後には、壁一面に貼られたアーティストたちのポスター。

 そのどれもが、今夜このステージに立つ者たちのものだった。


「入場からもう鳥肌もんだったけどよぉ、こっからが本番だ!

 わかるか!?この空気!この熱量!

 画面越しでもビンビン伝わってくんだよ!

 すげえぞ!マジですげえぞ!

 今夜、日本の音楽史に残る一夜になる!

 俺のこの勘は、外れたことがねえんだよ!」


 画面の端では視聴者数がぐんぐん伸び、チャット欄は洪水のように文字を吐き出していた。

「セブさん落ち着けwww」

「わかる!もう泣きそう!」

「始まっただけで伝説の予感!」

「チケット取れなかったの悔しすぎる…」  


 セブ直山は、そのコメントを指さしてさらに吼えた。

「そうだ!悔しがれ!

 そして目に焼き付けろ!

 これ、現地で見てるやつ、マジでうらやましいぞ!

 五万人の熱気を全身で浴びてんだぞ!?

 一生モンの体験じゃねえか!」


『おまえも来いよ直山!』

 彼は笑い、肩をすくめる。

「行けるもんなら瞬間移動したいわ!」

「さあ、トップバッターは誰だ!

 誰がこの最高の舞台の口火を切るんだ!?」


 ステージ前方のLEDが一斉に点灯し、太いキックが床を突き上げる。

 MCの声に重なって、彼女が飛び出す。

 chika。

 ポニーテールが光を切り、笑顔が弾ける。


 トップバッターはchikaの『元気爆弾☆』。

 イントロで客席の腕が一斉に上がり、コールの「おっす!」が波紋のように広がる。

 彼女は走って、跳んで、拳をコミカルに構えて煽る。

【おっす♪オッス♪押忍!】

【恋にパンチ!愛にキック!】

【片想いなんてチキンウイングフェイスロック♪】

 サビでドームが一斉にジャンプ。

 最上段から最前まで、跳ねる軌道が見事に揃って、紙吹雪が星みたいに舞う。

 SNSには

「元気いっぱいのパフォーマンス!」

「ファンは大熱狂!」

「元気もらえるな!!」

 の連打。  

 セブ直山が吼える。

「今の一体感!ドームを楽器にしてんだよ!

 あれはリズムじゃない、物理だ!」


【バックステージ/Synaptic Drive】

 ユージ「すげーな…元気の塊みたいだ…」

 けんたろう「ああいう、ひたすら元気になる曲も作ってみたい!」


 暗転。

 床面LEDは四季の色へと素早く切り替わる。

 春、夏、秋、冬。

 二番手はSDB96『Everymonth、カチューシャ』。

 センターに現れた白い扉が開くたび、制服風の衣装にカチューシャをつけたメンバーが次々と現れ、花道の外周まで陣形が伸びる。

 圧巻の人数でも振付はピタリと揃い、視界に乱れはない。

 ピンクの桜、青い波、白い雪――四季が一曲の中でめくれ、サビでは頭上に円を作る“カチューシャ”ポーズ。

 クラップに合わせ、会場の手拍子が屋根で跳ね返る。

 カメラはセンターをリレーで抜き、スクリーンに笑顔が咲くたび推しの名前が飛ぶ。

 セブ直山がうなる。

「人数の暴力が芸術になる瞬間!

 季節も想いも“毎年”戻ってくるって約束を、あの精度で見せつける。

 現地組、記憶の奥まで刻まれてるぞ」  

 チャットが湧く。

「カメラ割り天才」

「四季のグラデ鳥肌」


【バックステージ/Dream Jumps】

 あい「あんなに人数がいるのに、すごい統率…」

 ゆず「私たちは、少数精鋭!」

 めぐみ「負けないわよ!」


 蜂蜜色のスポットが静かに降りる。

 三番手、Tatsuya。

 淡色のジャケットにワイヤレスマイク、軽やかなギターとスネアが明るく甘い空気を作る。

 しなやかなステップ、手首のニュアンスで音符と遊ぶ。  

 彼はそっと声を置く。


【きみのすべて うけとめるよ♪ Leave it to me・・・】  


 言葉が溶けて客席へ降り、女性ファンの黄色い歓声が一斉に広がる。

 ブリッジで少し切なく、カメラ目線の微笑みで悲鳴が上がる。  

 セブ直山が身を乗り出す。


「声の芯が甘くて、リズムはタイト。

 ダンスも音と“遊んで”る。

 これぞ完璧なポップ!現地で浴びたい!」  


 アンバーがほどけるまで続く歓声の中、Tatuyaは胸に手を当て、四方へ丁寧に一礼した。


【バックステージ/Midnight Verdict)】

 ひなた「キャー!イケメン!」

 あや「もう、眼福!」

 さやか「ちょ、あやちゃん。ユージ君もこの会場にいるんだよ!」


 舞台監督の合図で、床がまた違う色に変わる。

 夜は始まったばかり。

 入場は終わり、ここからは音と光と身体で埋め尽くす時間。

 chikaの跳躍で血が巡り、SDB96の四季で記憶に色が灯り、Tatuyaの甘さで呼吸が整う。

 誰もが自分の心拍と同じテンポで、次の名前を待っている。


 セブ直山が、少しだけ声を落とした。


「こういう夜さ、最後まで観たあと、帰り道がぜんぶ音楽になるんだよ。

 信号の点滅も、電車のドアの音も、コンビニのチャイムもさ。

 今夜、そうなる。

 もうなってる」  


 コメントが優しく揺れる。

「わかる」

「帰り道が楽しみ」

「ずっと続いてほしい夜」

「歴史に立ち会ってる感じ」


 ドームのどこか遠い場所で、誰かが深く息を吸う音がする。

 照明がひとつ、またひとつ、次の色に変わっていく。

 拍手は波となり、期待は光の粒となって空中に漂う。

 今夜は長い。

 けれど、こういう長さなら、いくらでも続いてほしい。

 誰もがそう思っていた。

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