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vol.81 一条零、沈黙のカリスマ

「STARLIGHT SYMPHONY」の開催を目前に控え、取材攻勢は一条零の元にも押し寄せていた。


 都内某所、静かなスタジオ。


 白の背景の中央で佇むその姿は、まるで絵画の中から抜け出たばかりの女神のよう。

 その透明な空気感と、射抜くほどに静謐な佇まいが、あらゆる視線を惹きつけて離さない。


 記者の問いが、スタジオに澄んだ響きを落とす。


「今回の『STARLIGHT SYMPHONY』へのご出演、ファンも大変期待しています。

 意気込みをお願いいたします。」


 零は視線をわずかに落とし、そして世界の中心を捉えるように穏やかに語った。


「このイベントが、音楽の無限の可能性を拓き、調和の光で世界を満たす場となることを願っています。

 私自身も、その宇宙の片隅で、魂の奥底から湧きあがる音を回答としたい。

 静謐と激動、その両方を音楽で表現したいのです。」


 言葉は泉からそっと湧き出す水のごとく静かに、しかし深く取材陣の胸へ沁み込んだ。


 さらに記者のひとりがまた、空気をそっと震わせる。


「今回、多くの著名なアーティストが参加されますが、特に意識している方はいますか?」


 零の瞳は、記者の向こう側、遥かな天秤の上にきらめく無数の星を見つめるように虚空を仰ぎ見た。


「全てのアーティストが、それぞれに固有の光で夜空を彩る星々です。

 私はその輝きのひとつとして、様々な光と共鳴し、響き合うことを楽しみにしています。

 意識、というより、出会いが生む共振を心から求めています。」


 その声は湖面に広がる波紋のように場を包み、一瞬、時さえも止まったかのようだった。

 その哲学的な回答に、記者は「なるほど……!」と感心したようにメモを取る。 他のアーティストが「ライバル」や「刺激」といった言葉を使う中で、零の「共鳴」という表現は、彼女の異色のカリスマ性を際立たせていた。


 そして、記者のひとりが、重力を振り切るような勇気で、核心に迫る。


「先日、Synaptic Driveのユージさんが、けんたろうさんのことを『原子力発電所みてーな作曲家だ』と評していました。

 一条さんから見て、けんたろうさんはどのような存在ですか?」


 その刹那、空気が微かに揺らぐ。


 零の内に潜む火花が、一瞬だけその静謐な表面を破って、密やかに熱を帯びる。

 その変化は、場を満たす静けさの中ではっきりと感じ取れた。


 彼女はゆっくりと沈黙を抱きしめ、やがて深く息を吸うと、奥底から届く声で答えた。


「けんたろうさん……。

 彼は、魂の源流から絶え間なく溢れ出す音の奔流。

 私にとって、それは、宇宙の創生に生じたビッグバンのようです。

 無から有へ、破壊と創造のエネルギーで世界の枠組みを打ち砕き、

 新しい音楽という宇宙を、幾度も誕生させ続けている。」


 その言葉は、詩だった。

 漂う余韻が空間を染める。


「彼の音は、私の魂の深淵にこだまする永遠の鼓動。

 真のインスピレーションの根源――

 旋律やリズムという型を越え、

 宇宙という法則の美しさ、厳しささえも音に込める術を知っている。」


 零は、誰もいない遠い場所を見つめて微笑む。

 その微笑みは、敬愛と、言葉では尽くせない深い親愛を静かに湛えている。


 静謐な時のなか、音楽雑誌のベテラン記者が、感嘆の息とともに呟いた。


「まるで、けんたろうさんの詩人のようですね。」


 零は弧を描くように口元をやわらかく緩めて応える。


「そうかもしれません。

 彼の音楽は、私にとって魂を揺らす最上の詩です。」


 その瞬間、誰もがその場に立ち尽くした。

 一条零の内から生まれる孤高の響きと、けんたろうの名に込められた無限の賛歌が、

 見えない銀河の弦を静かに震わせていた。


 その微笑みは、これから音楽シーンに巻き起こるであろう巨大な嵐の中心に、彼女自身が立つことを、喜びをもって受け入れているかのようだった。

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