vol.73 女王のお仕置き、愛の旋律
「さあ、けんたろうちゃん。
わかってるわよね?」
Midnight Verdictのメンバーが慌てて部屋を飛び出していったあと、けいとさんは満足げにドアを閉めた。
鍵の音は小さい。
冷たい金属音が胸に響く。
これからの時間の宣告。
部屋に残されたのは僕と彼女と、どこからか漂ってくる甘い花の香りだけ。
けいとさんの瞳は、さっきまでの厳しさが嘘みたいに潤んでいた。
愛するものを見つけた狩人の光。
抱きしめる前の恋人の光。
僕はまだ、身体の奥にくすぐったさが残っていて、呼吸が落ち着かない。
怖いのとは違う。
熱いものが、胸の内側でふくらんでいく。
けいとさんは、その揺れを面白がるみたいに、ゆっくり近づいてきた。
「ねぇ、けんたろうちゃん。
私に黙って他の子とデートするなんて。
私、どれだけ心配したか、わかってる?」
声は甘い。
とろけるほど柔らかい。
ささやきが耳に触れた瞬間、背筋がぞくりと震える。
「ごめんなさい……。
本当に、ごめんなさい……」
僕がしおらしく言うと、けいとさんは頬にそっと手を添え、上目遣いで見上げる。
「謝ってほしいわけじゃないの。
私に、愛を証明してほしいだけ」
指先が顎をなぞる。
その触れ方は優しいのに、視線は鋭い。
心臓が、言葉を追い越して暴れ出す。
「じゃあ、まずは……」
けいとさんはふわりと身を寄せ、唇を僕の耳元へ運んだ。
「私のことを、世界で一番愛してるって。
大きな声で言って?」
頬が熱くなる。
それでも、従う以外の選択肢が見当たらない。
「せ、世界で一番、愛してます……っ!」
けいとさんは満足げに笑った。
「ふふ。
よくできました。
でも、まだ足りないわね」
首筋に指が触れ、細い線を描く。
そのままシャツの内側へ、ゆっくり滑り込んでくる。
ひんやりした指先が肌に届くたび、身体が勝手に答えてしまう。
「私以外の女の人なんて、目に入らないくらい。
私だけを熱く想ってるって、表現してちょうだい」
瞳に灯った炎から、目をそらせない。
僕は彼女の腰に腕を回し、逃げる代わりに引き寄せた。
「けいとさんしか、見てません……!
けいとさんのことしか、考えられません……!」
けいとさんの表情がほどける。
指が髪を分けていく度、僕の中の抵抗が音もなくほどける。
「ふふ。
かわいいわね。
でも、言葉だけじゃなくて。
もっと身体で示してほしいな」
手が背中を撫で上げ、首筋へ回る。
次の瞬間、唇が吸い寄せられた。
深いキスだった。
熱が、言葉の代わりに押し寄せる。
確かめ合うというより、所有を押し印するみたいに。
息が細くなっても、離してはくれない。
ようやく唇が離れると、僕の頭の中は熱で霞んでいた。
気づけば、僕の呼吸のリズムまで、彼女の手のひらの上にある。
「ねぇ、けんたろうちゃん。
猫なで声で甘えてくれる?」
囁きは甘いのに、命令だ。
僕は抵抗する間もなく、声をこぼれる。
「けいとさん……。
もっと……もっと……」
情けないほど素直な声。
勝手に出てしまう。
けいとさんは満足げに頬を撫でた。
「ふふ。
本当に可愛いわね。
あなたをこんなふうにできるのは、世界中で私だけよ」
そして、指先が僕の腹部に触れる。
キーボードの鍵盤を確かめるように、軽く、正確に。
音の代わりに、僕の身体が小さく跳ねる。
「さあ。
このお仕置きで、もう二度と浮気なんてできないように。
あなたの中に、私の愛を刻みつけてあげる」
悪戯っぽい笑顔。
それだけで、僕はもう降伏していた。
女王から与えられるのは罰であり、同時にゆるしだった。
僕の心と体は、けいとさんの愛の旋律に、深くおちていく。




