vol.66 めぐみ、高校生探偵になる
「Midnight Verdict」の事務所で拾った情報の断片。
それがめぐみの心に小さな火をつける。
「けんたろうは高校生じゃない」という、実は「高校生だ」という裏情報。
めぐみは探偵さながらの行動を開始した。
マネージャーの制止など、今の彼女には遠くで鳴くカラスの声ほどにも響かない。
こっそりと抜け出しためぐみは、けんたろうの通っている高校の周辺を連日うろつき始めた。
めぐみは、自分の正体を隠している……つもりだった。
大きなサングラス。
顔の半分を覆うマスク。
そこまでは、まあギリギリ。
ただ、Dream Jumpsのロゴ入りトートバッグが、やたら主張していた。
すれ違う生徒は皆、「あれ?どこかで見たことあるような……」と眉をひそめる。
「なんかオーラ違うんだけど?」と小声も飛ぶ。
なのにめぐみだけは確信している。
よし、完璧な変装だ。
そんなある日の放課後、ついにその時が来る。
校門から、下校の波に紛れて現れた少年。
学園祭で、あの美しいピアノの旋律を一瞬だけ残していった――けんたろう。
隣には、茶髪で今どきの空気をまとう友人、早坂。
見間違えるはずはない。
あの音の輪郭を、耳がまだ覚えている。
(よし、発見!あの時の男の子だわ!やっぱり高校生じゃないの!)
心の中でガッツポーズを作る。
そして、二人の後ろについた。
距離は、近すぎず遠すぎず。
探偵の距離。
けんたろうと早坂は、他愛もない話をしながら歩いている。
自分たちがDream Jumps本人に尾けられているなんて、露ほども知らずに。
「なあ、けんたろう。
お前さ、Dream Jumpsだったら、誰が一番好き?」
早坂がニヤニヤしながら尋ねる。
「えー、誰って言われてもなぁ……」
けんたろうは困ったように眉を下げた。
特定の誰かを一番だと選ぶのが苦手なのだろう。
その反応に、めぐみは思わず固唾をのむ。
自分を指名してくれるだろうか……と、胸が高鳴る。
「俺は、めぐみかな!」
早坂がそう言い放つ。
めぐみの顔はマスクの下でパァッと明るくなった。
(やったぁ!早坂くん、見る目あるじゃない!)
めぐみは、思わず心の声が漏れそうになるのを必死で抑えた。
すると、早坂が残念そうに付け加える。
「でもさ、もうちょっと胸があれば最高なんだけどな!」
「ぶっ!」
めぐみは、その言葉に思わず変な声を出してしまい、慌てて咳払いをする。
(悪かったわね!ペチャパイで!)
めぐみは心の中で激しく反論したが、もちろん声には出せない。
早坂はそんなめぐみの存在に気づくことなく、けんたろうに話しかける。
「おい、けんたろう!
ノリわりーよ!
どの曲も好きじゃねーの?」
早坂に促され、けんたろうはしばらく考え込んだ後、ようやく口を開く。
「うーん……Dream Jumpsだったら、『ハッピー☆ジャンプ!』かな」
めぐみは、思わず目を見開いた。
え、あの曲?
人気はある。
でもどちらかといえば、「可愛い」を前面に押し出した、いわゆる王道のアイドルソングだ。
それを、彼が?。
「あの曲は、Aメロからサビにかけてのコード進行と、途中の転調が本当にドラマチックなんだ。
聴く人の感情を自然と引き込んで、ワクワクさせてくれる。
あそこまで計算され尽くした構成は、なかなかできることじゃない。」
早坂の顔が、きれいに「???」になった。
コード進行。
転調。
その言葉が、彼には宇宙語みたいに聞こえているのだろう。
「けんたろう、お前、オタクみたいだな!」
早坂は笑って茶化す。
でも、めぐみは笑えなかった。
専門的な単語の向こうに、音を掴む手の確かさが見えたからだ。
飾りじゃない。
知ったかぶりでもない。
音楽を、解剖できる目をしている。
(あの曲を、そんな風に見るなんて……そんなこと言えるって、やっぱり!!)
めぐみの中で、疑いが確信に変わる。
目の前の少年は、あの「天才作曲家」に違いない。
胸の奥で、興奮がじわじわと熱を持つ。
そしてもう一つ、別の火も点いた。
これから始まるであろう、けんたろう攻略。
野望が、放課後の影の中で、静かに燃え上がっていく。




