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vol.52 太陽の降臨、Dream Jumps!

 番組が始まる。

 CMが明けた瞬間、ステージが閃光に包まれる。

 地鳴りのような歓声。

 スモークが裂けていく。


 きらめく5つの輪郭。

 Dream Jumpsの5人。


 センターに立つめぐみ。

 太陽の光を編み込んだような明るい茶色のロングヘア。

 彼女が微笑むだけで、会場全体の温度が一度上がるような、天性の輝き。

 いや、魔法かもしれない。

 笑顔は無防備。

 しかし視線は逃がさない。

 カメラが探すより早く、彼女のほうがレンズを捉える。

 中心は最初からそこに在る。


 その隣、小柄なゆず。

 大きな瞳を瞬かせ、拍の隙間にぴたりとウィンク。

 心臓の鼓動を一拍奪うような完璧なタイミングでウィンクを放つ。

 その一瞬に、何千という息が止まる。


 すらりとしたりお。

 モデルのようなプロポーション。

 重力を感じさせないアクロバティックなダンス。

 クールな表情と激しい動きのギャップが、観る者の視線を釘付けにする。


 5人の中に、ふんわりとしたピンクの花びら。

 ボブヘアが印象的なもも。

 甘い雰囲気とは裏腹に、ドームの隅々まで届く堂々とした歌声。

 グループの音楽的支柱。

 優しくも揺るぎない、誓いのように確かな声が、存在感を放つ。


 少しおずおずと手を振るあい。

 その守ってあげたくなるような儚さ。

 巧妙に計算された「隙」。

 ファンの庇護欲を正確無比に射抜く。

 触れれば散ってしまいそうな繊細さが、人々の心を捉える。


 最新シングル『太陽の季節』が流れる。

 誰もが一度で口ずさめるメロディ。

 だがその裏には、複雑な転調と緻密なハーモニーが張り巡らされている。

 歌は軽く、編曲は重い。

 軽さのふりをした技巧。


 フォーメーションが変わるたび、景色が組み替わる。

 万華鏡の中身を、誰かが指先で回しているみたいに。

 めぐみを中心に、五人の動きが呼吸ひとつで揃う。

 笑顔は一瞬も崩れない。

 汗さえ、演出に見える。


 もはやアイドルのステージではなく、極限まで練り上げられた総合芸術。


 会場の無数のペンライトが、彼女たちの動きと寸分違わず統率され、七色の波となってうねる。

 巨大な資本と才能が生み出した、【完成されすぎた「王道」】。

 その光は、あまりに強く、あまりに眩しい、暗闇を知らない世界。


 安堵と喜びに包まれるMidnight Verdictの日常とは裏腹に、音楽業界には太陽風が吹き荒れる。

 大型新人アイドルグループ『Dream Jumps』が、宿命の時を選ぶかのようにデビューした。


 老舗の大手芸能事務所は社運を賭け、業界屈指の大物プロデューサー春元康を迎え、映画一本分とも囁かれる金を投じた。

 渋谷の大型ビジョンは一週間、彼女たちの笑顔に占領され、国民的飲料のCMが続く。

 ニュースもSNSも、朝から晩まで同じ五人の名前を反射させた。


 太陽風。

 それは、好む好まないを選ばせない熱だった。


 ♪ ♪ ♪


「ねぇ見て、Dream Jumps!

 テレビで見ない日ないよね。

 同じ人間とは思えないくらいキラキラしてる!」


 ひなたが雑誌の特集ページに顔を近づけて言う。

 紙面からも光が跳ね返ってくるみたいだった。


「ああ、最近やたらと目にするな」


 あやが答える。

 いつもの皮肉めいた響きはない。

 同じステージに立つ者としての冷徹な分析。


「でも、これは本物だわ。

 ただのゴリ押しじゃない。

 パフォーマンスの完成度が異常よ。

 特にセンターのめぐみ…あの子の笑顔は、人を惹きつける天性の何かがある。

 計算とか努力とか、そういう次元じゃない」


「私たちのファンも、あっちに流れちゃうかな…」


 さやかが、静かに、しかし確かな危機感を口にした。


 スタジオの壁には、ひなたがどこからか貰ってきたDream Jumpsのポスターが貼られていた。

 一点の曇りも、迷いもない、完璧な笑顔を振りまく五人の少女。

 それは、傷や影を糧にして夜を駆けてきたMidnight Verdictとは、あまりに対極にいる存在。

 一条零、Synaptic Driveとはまた質の違う、抗いがたい輝きを持つ強敵。


 けいとは、ポスターの中の太陽――めぐみを、じっと見つめていた。

 だが、その横顔に焦燥の色はない。

 瞳の奥で燃えていたのは、再会したけんたろうから得た熱と、傷だらけで磨き上げてきたバンドのプライド。

 そして。


 けいとはポスターの中の太陽――めぐみから視線を外す。

 誰かを奪われたくない、という感情に似たものが、目の奥でひと揺れする。

 真夜中の女王が、自分の領域に降り立った新たな光を、挑戦として認識した。

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