vol.51 Dream Jumps と天使が舞い降りる
その日、テレビの向こうで爆発したのは、目を開けていられないほどの極光。
大型新人アイドルグループ、『Dream Jumps』のデビューパフォーマンス。
画面の先で踊る少女たちは、春本という才人が計算し尽くした「完璧な青春」を体現していた。
少女たちはただ明るいのではない。
眩しさが「揃って」いる。
一糸乱れぬフォーメーション。
笑顔の角度。
指先の伸び。
跳ねる髪のタイミング。
音に縫い合わされたみたいに整っていた。
曲は一度聴けば耳が覚える。
けれど、安い甘さじゃない。
サビへ入る直前、ほんの一拍だけ空気を引き絞り、次の瞬間、まとめて解放する。
客席の呼吸まで、その設計に吸い寄せられていく。
そして——センター。
めぐみが笑うと、画面の温度が上がる。
笑顔は無防備。
しかし、視線は逃がさない。
カメラが探す前に、彼女のほうが先にレンズを捉える。
派手な動きで奪わない。
立っているだけで中心が定まる。
周囲のメンバーの輝きさえ、彼女の光で磨かれる。
計算や努力の跡など微塵も見せない、天性の「アイドルという怪物」。
Midnight Verdictの控え室。
その圧倒的な光を前に、メンバーたちは言葉を失う。
「ただ明るいだけじゃない……あの子たち、化け物ね」
あやが腕を組み、素直な評価を口にする。
「パフォーマンスの完成度が異常よ。
特にあのセンターの子。
笑顔ひとつで人を支配する天性の何かがある。
努力でどうにかなる次元を超えてるわ」
悔しさを隠さない声の横で、さやかは別の角度から画面を見ていた。
「楽曲も……一見、誰にでも好かれるポップスですが、その実、アレンジも和音構成も恐ろしく高度に組み上げられています。
あれだけの難曲を、あの笑顔で、息一つ乱さずに歌いこなすなんて……末恐ろしいです」
Dream Jumpsは瞬く間にチャートを駆け上がる。
街は名前で埋まる。
ポスター、番組、雑誌の表紙。
どこを見ても、同じ眩しさが反射している。
一条零とSynaptic Driveの台頭。
そしてこの新たな「太陽」。
対して、Midnight Verdictの新曲は遅れていた。
焦りがないはずはない。
けれど、焦りだけで音は生まれない。
沈黙の中で、けいとが静かに言った。
「新曲がもうできる」
メンバー全員の視線が、けいとに集まる。
彼女の表情は、どこか吹っ切れたように見えた。
「あと少し…」
一度、息を吸う。
言葉の位置を決めるように。
「今回は…私に歌わせて」
その言葉に、部屋の空気が止まる。
これまでMidnight Verdictのセンターマイクは、あやの聖域だった。
それを譲ってほしいという申し出。
だが、それは功名心からではないことを、誰もが瞬時に理解した。
彼女の瞳に宿る、切実なまでの熱情がすべてを物語る。
「もちろんだよ、けいと!」
あやが最初に笑った。
迷いのない笑い。
「ありがとう。
あや、ひなた、こはるはコーラスでしっかりサポートしてね」
さやかも「はい!」と春の芽吹きのような力強さで応え、ひなたとこはるも喜びを隠せない表情で快諾した。
かおりは一言も挟まない。
ただ、けいとを見る目が、いつもよりわずかに柔らかい。
「それで、曲のタイトルなんだけど…」
けいとが一呼吸置いて、タイトルを告げた。
「『天使が舞い降りた日』という曲なの」
「「「「ええっ!?」」」」
メンバーから驚きの声。
「今までと全然雰囲気違うね!」
こはるが、目を丸くする。
Midnight Verdictのクールでスタイリッシュなユーロビートとはかけ離れている。
まるで聖歌のようなタイトル。
だが、けいとの瞳に迷いはない。
その奥には、確かな自信と、誰かへの深い愛情が灯っていた。
これは、太陽に抗うためではない。
真夜中として立つために選んだ言葉。
天使が舞い降りるのは、きっと空からじゃない。
暗がりの底で、もう一度、声を取り戻すその瞬間だ。
Midnight Verdictの新たな物語が、今、始まろうとしていた。




