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vol.48 野川公園の密会

 深夜。

 ユージの愛車シルビアが夜の道を滑るように走っていた。

 助手席の僕、けんたろうは、意味もなく流れる窓の外の光に目をやっていた。

 カーステレオから漏れるのは、最近僕が好んで聴いている、少しばかりマニアックなユーロビートだ。

 何も言わずともチューニングされるそのリズムは、ユージなりの不器用な慰めなのだろう。


「夜の街でも走ってりゃ、なんかいいメロディ湧いてくるんじゃね?」


 努めて明るく振る舞う横顔に、僕の強張った頬がわずかに緩む。

 彼はいつもそうだ。

 僕が行き止まりで立ち尽くしていると、こうして強引に、けれど優しく道を作ってくれる。


 目的地は、府中市の北にある野川公園。

 僕とけいとさんが、幾度となく足を運んだ思い出の場所。

 都心から少し離れたこの広大な公園で、僕たちはだらだらと歩きながら、他愛もない話をしたり、時には真剣な悩みを打ち明けたりした。


 今日ここを選んだのは、たぶん。

 僕たちの過去を知る人たちの判断だ。


 シルビアが駐車場に滑り込み、静かに止まる。

 エンジンが切れた瞬間、音楽も呼吸も、一段深いところへ落ちた気がした。

 夜の沈黙が車内に入り込み、僕の喉の奥にまで満ちてくる。


 ユージがハンドルから手を離し、長めに息を吐いた。

 その息だけで分かった。今夜は、ただのドライブじゃない。


「けんたろう、悪い。

 ……今夜は、けいとちゃんに会わせるために連れ出したんだ」


 心臓が一度、強く鳴った。

 予感はあった。

 けれど、それが言葉という形を持った瞬間、足元の床が抜け落ちたような感覚に襲われた。


 最近のけいとさん。

 一条零。

 そして、僕の曲が投げた波紋。


 僕は何かをしてしまったのかもしれない。

 彼女の中に、ほどけない結び目を作ってしまったのかもしれない。

 そう思うたび、胸の奥がざらつく。

 会いたい。

 けれど、会って何を言う。

 会うのが、怖い。


 ユージに促され、僕は夜の底へと足を踏み入れた。

 街灯の光さえ届かない木々の深淵。

 その闇の中に、三つの影が滲むように浮かび上がっていた。

 けいとさん、あやさん、そしてさやかさん。

 今やスポットライトを浴びる側にいる彼女たちが、この闇に身を潜めるリスク。

 その覚悟の重さが、痛いほどに伝わってくる。

 僕ひとりのために、彼女たちはここまで来てくれたのだ。


 ユージが先に声をかけた。


「よう、あや!」


「ユージ、ありがとう」


 あやさんの声には、安堵と緊張が入り混じっているのが分かった。

 その隣で、さやかさんがふわりと微笑む。


「ユージくん、けんたろうちゃん。

 ……待ってたわ」


 その穏やかさが、かえって痛い。

 僕は、うまく息ができなくなる。


 そして。

 僕とけいとさんの視線が、音もなく絡み合った。

 顔を見る。

 痩せたようにも見える。

 夜の闇がそう見せているだけかもしれない。

 けれど、そう思う自分がもう、答えの一部だった。

 彼女もまた、僕を見ていた。

 探るように、確かめるように。

 僕の中の何かを、読み取ろうとするみたいに。


 静寂の中、夜風が木々の葉を揺らす音だけが、緊張で体が強張るほど大きく聴こえていた。

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