vol.40 Dream Jumps
一条零という孤高の歌姫。
それを追いかける、夜のきらめきMidnight Verdict。
Synaptic Driveという突然変異。
これらの星々が輝く音楽シーン。
突如として降り注いだ新たな流星群。
その名は――Dream Jumps。
発表記者会見は、平日午後のざわめくホール。
退屈な空気を切り裂くように砂糖菓子のような爆撃。
照明に照らされたスクリーン。いっぱいに、キャンディみたいな色合いのロゴ。
「Dream Jumps」の名前が躍る。
ライトが虹色に明滅。
光の中心に現れたのは、太陽のような無邪気な笑顔の少女・めぐみだった。
やわらかく揺れる明るい茶色の髪。
それだけで視線という視線を絡め取る。
「センターのめぐみです!よろしくお願いしますっ!」
声が、会場の空気を一段階明るく塗り替えた。
間髪入れず、隣で小柄なゆずがウィンクを放つ。
「みなさ~ん、よそ見禁止だよっ!」
あざとい。
けれど完璧。
長身のりおがクールな流し目で空気を引き締め、ピンクのボブが揺れるももが
「歌声で魔法をかけるね」
と微笑む。
末っ子のあいは、怯えと期待が混じった瞳で懸命に手を振る。
その未完成な一生懸命ささえも計算されたスパイスのように、会場は瞬く間に「肯定」一色に染め上げられた。
業界の大御所プロデューサー・春本がマイクを握る。
「Dream Jumpsは夢と挑戦の結晶。
彼女たちは、成長する物語そのものです」
その言葉の裏に潜む計算と野心に、記者たちは気づかない。
あるいは気づいていても、この眩しさの前では、そんなことは些末な問題なのかもしれない。
♪ ♪ ♪
いよいよその夜。
Dream Jumpsのデビュー特番が、ゴールデンタイムの枠をさらっていた。
パステルカラーの箱庭。
舞台は夢の境界線。
ステージは、まばゆいスポットライトに囲まれる。
一糸乱れぬフォーメーション。
光に溶けるようなダンス。
炭酸の泡みたいにはじける歌声。
めぐみは、客席を太陽の視線でまるごと包み込む。
大きな瞳のゆずのウィンクは0.1秒の狂いもなくカメラを射抜く。
りおのダイナミックなダンスがフロアの空気を震わせ、
ももの力強い歌声が、全体を確かに支えている。
あいは、まだ少しおそるおそる。
それでも精いっぱい手を振り、誰かひとりの目を探すように視線を彷徨わせながら、
少しずつ観客の心を引き寄せていく。
完璧に設計されたアイドル像。
傷ひとつない、研磨され尽くしたアイドルの理想像。
♪ ♪ ♪
一方その頃、Midnight Verdictのリビング。テレビ画面いっぱいの夢とカワイイの奔流に、私たちはただ息を呑んでいた。
「……すごい。
私たちとは、畑が違いすぎる」
あやが驚きを隠せずにつぶやく。
「あざとさのフルコースだ。
でも、これ絶対売れる。」
ひなたは、どこか悔しそうに苦笑した。
重い沈黙と焦燥。
けれども、それは誇りを失う沈黙じゃない。
「人形だな」
かおりの声が、静かに部屋の空気を震わせる。
確かに彼女たちのパフォーマンスは完璧で、見る者を圧倒した。
だが、そこには血の匂いがしない。
魂の叫びも、予測不能なノイズもない。
あるのは徹底的に管理された、作られた夢。
SNSでも話題が爆発している。
ひなたがスマホを見せ、
「春本……今、最強カード切ってきたね」
とつぶやく。
一条零とSynaptic Driveがしのぎを削るこのタイミング。
次世代アイドル戦国時代。
巨大なマーケティングと「カワイイ」の津波。
業界の空気が、さっと塗り替わるのを感じた。
♪ ♪ ♪
けいとは、自分の輪郭が曇るのを拒んだ。
「私たちのやることは、変わらない」
みんなの視線が集まる。
「一条零とも、Synaptic Driveとも、Dream Jumpsとも違う。
私たちだけの音楽をやる。
誠実な気持ちで、私たちの魂を歌に乗せるだけ」
けんたろうへの想い。
ここまで一緒にきた、かけがえのない仲間たち。
私たちだけの「本物の心」――
それを歌うんだと、自分に言い聞かせるように。
「あの子たちの商品感には勝てないかもしれない。
でも、魂の音では絶対に負けない」
あやが拳を握る。
「三つ巴じゃない。
四つ巴の戦国時代だね……楽しんじゃおうよ」
ひなたが、いつもの悪戯っぽい笑みを取り戻す。
負けず嫌いの炎が、瞳の奥で小さく揺れた。
けいとは不敵に微笑み、仲間たちを見回した。
「私たちの本当の逆襲は、ここから始まる」
夜のリビング。
窓の外、きらめく街のネオンさえも、今夜は新しい戦いの夢色に染まって見えた。
新たな風が、音楽シーンを大きく動かし始めていた――。




