vol.27 女王の入場
『ミュージック・フォレスト』。
絶対的歌姫・一条零と、破竹の勢いで駆け上がるMidnight Verdictの初共演。
時代が動くかもしれない夜。
テレビの前で、日本中の視聴者が息を殺していた。
ステージにスモークが焚かれ、強烈なライトが交錯する。
その光の中から、神々しいほどのオーラを放つ6人のメンバーが姿を現した瞬間、会場のボルテージは一気に最高点へと達した。
先頭を歩くのは、リーダーけいと。
純白のワンピースに、黒のジャケット。
戴冠式に臨むかのような風格。
アイドルではない。
若き女王だ。
けいとは正面を見ている。
けれど焦点は遠い――袖の闇、そのさらに奥。
まだ姿のない一条零の位置に、視線が刺さっている。
その時だ。
二つの影が、女王の前へと躍り出た。
華やかな花柄のワンピース、太陽のような笑顔――あや。
ミニスカートから伸びる脚が眩しい、ひなた。
まるで女王を守る二振りの剣。騎士。
あやの花柄がふわりと舞い、ひなたがウインクを飛ばす。
二人は一瞬だけ目を合わせて――
ぽん。
小さなグータッチ。
それだけで、会場の緊張が一気にほぐれた。
けいとは苦笑いを浮かべながら、一歩後ろに下がる。
『もう、この子たちは』とでも言いたげに。
彼女のすぐ後ろには、白き翼のようにさやかとこはるが守るように続く。
癒し系お姉さんのさやかと、ふわふわ天使のようなこはる。
二人は静かに、ほんの一瞬だけ視線を交わし、ふわりと微笑み合った。
「今日も二人とも頑張ろうね」って言葉が聞こえてきそう。
言葉にしなくても伝わる、確かな信頼。
そして最後尾。
ミステリアスな空気を纏うかおりが、全てを支配していた。
無数のカメラが自分に向いていることなど百も承知で、一度だけ、赤いランプをちらりと見た。
ただそれだけで、彼女は視線を前に戻す。
その無言の圧こそが、この無敵のフォーメーションを完成させる最後の要だった。
完璧な調和。
それでいて、一人一人がくっきりと際立っている。
これが、Midnight Verdictだ。
♪ ♪ ♪
ステージが始まった瞬間――ネットはすぐさま【お祭り】状態になった。
タイムラインは、指でスクロールしても追いつかない。
【SNS・ネット民の反応】
「女王けいと様、気高さがバグってる……マジでCG?」
「今日のけいとさんマジで神域。一条零の牙城を崩しに来てる!」
「あやひなのグータッチ、GIFにして一生ループしたい」
「無理好き。あやひなのグータッチで呼吸止まった。誰か助けて」
「あやひなのグータッチで今日という日が祝日認定されました」
「さやこはの微笑みで今週を耐える」
「かおりさんのカメラ目線、心臓止まるかと思った」
「騎士に守られる女王のフォーメーション、全人類祝福案件」
「さや・こはの微笑みで一週間分の栄養補給完了」
「さやこはの微笑み、今日の疲れ全部溶けた。明日からまた生きれる」
「かおりさん、無表情で無言なのに、なんでこんなに存在感があるんだ?」
「かおり様のカメラ目線、心臓に悪い(最高)。寿命5年縮んで50年延びた」
「推ししかいなくて逆に困る」
「もうアイドルって枠じゃない。これは革命軍だろ」
「今夜、日本の音楽史の頂点が変わるぞ!」
「もうMVが国民的って言葉を超えてる、久しぶりにリアルタイムで叫んだ」
「てか衣装どこの!?特定班はよ!!!」
「今夜、日本の音楽史の頂点が変わるぞ!」
「MVしか勝たん!!ガチで!」
「またアイドルかよ…って思ったけど、この登場はちょっと格が違うな…」
「零様のファンだけど、これは正直ヤバい。認めざるを得ない…」
#ミュージックフォレスト #MVしか勝たん #歴史が変わる夜
【音楽評論家・佐野美月のコラム速報】
「もはや登場ではなく降臨。
Midnight Verdictが見せつけたのは、各メンバーが役割を完璧に理解した生ける芸術だ。
彼女たちは今夜、挑戦者としてここに来たのではない。
新たな頂点として、その椅子に座りに来たのだ」
一方、人気音楽系YouTuberのセブ・直山は、自身のチャンネルで生配信を行いながら、テーブルを叩いて興奮していた。
「見たかお前ら!
これがMidnight Verdictだ!
コメント欄が『けいと様神!』『MVしか勝たん!』で埋まってるけど、ああ、分かってる、分かってるよ!
でもな!
今日はそれだけじゃねえんだよ!
この登場、このフォーメーション!
これはもう宣戦布告だ!
誰に対してかって?
決まってんだろ!
この後に出てくる絶対的歌姫、一条零に対してだよ!」
彼は熱っぽく語り続ける。
「ネットじゃ『今夜、頂点が変わる』なんて声も出てるけど、マジであり得るぞ!
ファンはみんな分かってるんだよ、この共演がただのお飾りじゃないってことをな!
女王けいとが、一条零にどう挑むのか!
この国中が注目してる!
今日の『ミュージック・フォレスト』はただの音楽番組じゃねえ!
歴史の目撃者になるんだよ、俺たちは!」
♪ ♪ ♪
テレビを見ていた梓は、息をのんで画面を見つめていた。
今日の彼女たちのオーラは、いつにも増して、特別なものに感じられた。
梓の視線は、無意識にけいとの表情に釘付けになっていた。
凛として歩くその姿の裏に、張り詰めた緊張感が見える。
一条零という巨大な存在だけでなく――彼女はもっと個人的な何かと戦っている。
画面の中のけいとは、相変わらず完璧な微笑みを浮かべている。
でもその奥に、誰にも見せられない何かを隠しているのを、梓は確信していた。
(けんたろうくん……どうしてるかな)
梓の脳裏に、先日廊下で見たけんたろうの悲しそうな瞳と、「けいとさんなんか、何もわかってないよ!」という言葉が蘇る。
輝かしいステージの裏側で、どれだけの感情が渦巻いているのだろう?
梓は、その複雑な関係を、確かな目で感じ取っていた。
このステージは、ただの華やかなショーじゃない。
誰かの心を置き去りにしたまま加速する、残酷な祝祭だ。
女王の冠は光る。
今夜、その輝きは――
守られるのか、奪われるのか。




