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vol.236 恋バナ②

 箱根への道中、僕たち3人の恋バナは止まらない。

 窓の外、冬の海がひかって、車内だけが妙にあたたかい。

 富士山キティが、右に左に忙しく踊っている。

 その落ち着きのない動きが、運転席のユージみたいだ。


「おう、けんたろう」


 ユージがバックミラー越しに目を細める。


「年上の話は分かった。

 じゃあさ、Dream Jumpsの5人なら、誰がタイプだ?」


「は?」


 声が裏返る。

 唐突なカーブボール。

 綾音さんも助手席で、口元を手で隠して笑ってる。

 興味津々の顔だ。


「え、いや……みんな可愛いし、僕の曲をあんなに全力で歌ってくれたし……みんな好きだよ?」


 逃げたつもりの答えだった。

 でもユージはハンドルを切りながら、ニヤニヤが張り付いてる。


「そうじゃなくてさ~。

 もし彼女にするなら、って話だよ。

 正直に言えって。

 男同士の仮定の話だ。

 ここだけの秘密にするからさ」


「正直に、って……」


 けいとさんの顔が脳裏によぎって、胃がきゅっと縮む。

 こんな話、聞かれたら絶対に拗ねる。

 いや、拗ねるだけじゃ済まない。


 だけど、車内の空気が軽くなる。

 ここ数日、こんな「どうでもいいことで困る」時間なんてなかったから。


 僕は、仕方なく本気で考えてしまった。


 リーダーのめぐみちゃん。

 歌唱のゆずちゃん。

 ダンスのりおちゃん。

 天然のももちゃん。

 しっかり者のあいちゃん。


 ……全員、欠かせない。

 選ぶとか、本当は変だ。


「うーん……難しいなぁ」


 僕は窓の外に逃げるふりをしながら、言葉を選んだ。


「でも、もし……もしって言われるなら……めぐみちゃん、かな」


 言った瞬間、綾音さんが「やっぱり」と小さく息を漏らした。

 ユージは「ほらな!」と勝ち誇る。


「理由は?」


「理由……」


 僕は膝の上で手を組み、言葉を探した。

 ただ明るいからじゃない。

 彼女が向けてくれる視線の種類。


「めぐみちゃんは……僕を、無条件で信じてくれるから。

 すごい曲を作ってくれるって、あの大きな瞳で疑いもなく慕ってくれる。

 その真っ直ぐな気もちに……なんていうか、救われる気がするんだ」


 ユージの横顔が、一瞬だけ真面目になった。

 綾音さんも、笑いを止めて前を見たまま頷く。

 僕の声が少し沈んだのが伝わったのか、二人の笑いが、ほんの一拍だけ止まった。


「……なるほどな。

 『慕われる』ってのは、一番の特効薬かもな」


 ユージは、わざとらしく明るく言って、すぐに助手席へパスを出した。


「じゃあ綾音ちゃんは?

 誰がいいと思う?」


「え、私ですか」


 綾音さんは少し考えてから、あっさりと答えた。


「あいちゃんですね。

 MCで場を回してるのを見ると、気配りが細かいタイプかなって。

 けんたろうくん、放っておくと食べないじゃないですか」


「ははっ、リアルだな」


 ユージが吹き出す。


「綾音ちゃんは現実的だな。

 あいちゃんは賢いし、そりゃ強い。

 けんたろうの隣に置いといたら安心ってやつだな」


 僕もつられて笑った。


「まあ、でも」


 ユージがわざと大きく咳払いをして、僕に釘を刺す。


「けんたろうは、けいとちゃんがいるからな。

 浮気はダメだぞ!」


「しないって!」


 反射で言い返して、綾音さんがくすっと笑う。

 その笑い声が、張り詰めていた車内の空気を、ふわりと柔らかくした。


 窓の外、冬の乾いた光が、流れる白線をなぞっていく。

 他愛ない会話の余韻に浸りながら、僕は思った。


 恋バナなんて、今の僕には世界で一番どうでもいいことのはずなのに。


 意味のない言葉。

 意味のない仮定。


 その「無駄」が、僕をこちら側に繋ぎ止める、くさびなのかもしれない。

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