表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/239

vol.23 歌姫、聖域から静かに降りる

 数日後、そのニュースは、雷鳴のように音楽業界を切り裂いた。

 大手レーベル、エンペラー・レコードからの公式発表。


 一条零が、新曲をリリースする。


 それだけなら、いつものニュースだ。

 だが問題は、そのジャンルだった。


 ユーロビート。


 彼女がこれまで、一度として足を踏み入れたことのない領域。

 その言葉が発表資料に載っているというだけで、音楽業界には大きな衝撃が走った。


 一条零が、ユーロビートを歌う。

 それだけで前代未聞なのに、そのタイミングが、Synaptic Driveのブレイクとぴたりと重なっていることを、誰もが意識せずにはいられなかった。


 ♪ ♪ ♪


 緊急記者会見の会場は、酸素が薄くなるほどの熱気に包まれていた。

 無数のフラッシュが焚かれ、白い閃光が波のように押し寄せては引いていく。


 その光の中から、一条零が現れた。


 黒のシンプルなドレス。装飾らしい装飾は何もない。

 だからこそ、彼女の存在そのものが、否応なく浮かび上がってしまう。

 彼女がマイクの前に立った瞬間、会場の空気が凍りつき、物理的な重さを持って沈殿する。

 威圧ではない。

 ただ圧倒的に「格」が違う生物を前にした時、人は本能的に呼吸を忘れるのだ。


 多くのメディアが詰めかける中、その壇上に立つ彼女の姿には、気取った華やかさも、特別な威圧感もなかった。

 ただ「そこにいる」だけ。

 それだけで場内の空気が張り詰めていく。

 彼女の「静けさそのもの」が、空間ごと支配する。


 シャッター音が止む。

 咳払いひとつ許されない、真空のような静寂。

 零は一度だけまぶたを伏せ、ゆっくりと開いた。

 その瞳は、眼前の記者たちを通り越し、遥か彼方の星を見ているように澄み渡っている。


 会場を一巡し、はっきりと言葉を紡ぐ。


「私は、けんたろうさんの作った曲を歌いたい。

 どんな形であれ、彼が認めてくれるまで、私は絶対に諦めません」


 低く、澄んだアルトの声が、マイクを通して会場の四隅まで浸透する。

 どよめきが起きかけるが、彼女の視線がそれを制した。

 挑発とも受け取れる宣言。

 だが、その目には、侮りも虚勢も一切なかった。

 それは懇願でもなければ、単なるオファーでもない。

 敬意と情熱、そして誓い。

 運命の決定事項を告げる、予言者の響き。


「彼らのユーロビートのスタイルで歌います。

 私の歌声で、彼らの考えを変えてみせます」


 彼女の表情は、どこか挑むような、そして自信に満ちたものだった。

 それは、けんたろうの音楽への純粋な敬意と、自身の歌声への絶対的な自信の表れだった。


「私のもてるすべてを、彼に捧げます」


 そう言い切った一条零は、最後に、会場のメディアのフラッシュを浴びながら、静かに、しかし切々と、あるフレーズを口にした。



「けんたろうさんに……『少しだけでいい 伝えたい』」



 その瞬間、世界が止まった。

 自宅のテレビの前で、けいとは凍りついた。

 あやはスマホを握りしめ、言葉を失った。


 そのフレーズ。

 渋谷の交差点でけんたろうが血を吐くように歌った、Synaptic Driveのソロ曲『あなたは知らない』の一節。

 一条零は、けんたろうの歌に込められた、孤独と届かない愛の痛みを、完全に理解しているということなのか。


 これは、単なる新曲の発表ではない。

 プロデューサー・けんたろうへの、そしてユーロビートの女王・Midnight Verdictへの、歌姫からの明確な「宣戦布告」だった。


 会場が息を呑み、誰もがその場に釘付けとなった。

 一条零はしばし沈黙し、ゆっくりとマイクを置く。

 深々と行われる一礼。

 その所作は、祈りにも誓いにも見えた。

 顔を上げる。

 揺るぎない瞳が、新しい時代の夜明けを告げるようであった。



【衝撃】歌姫・一条零、宣戦布告!?記者会見がヤバすぎた件

 YouTuber:セブ・直山


「どうも、セブ・直山です!

 みんな、今日のニュース見たか!?

 マジで音楽業界がひっくり返るような、とんでもない発表があったんだよ!」


「そう、我らが歌姫・一条零!

 なんとあの一条零が、新曲をリリースするって発表したんだ!

 しかも、そのジャンルが……まさかの『ユーロビート』!

 天上の歌姫が地上戦に降りてきただけでも事件なのに、話はここで終わらない。

 記者会見での彼女の発言が、マジでヤバかったんだよ!」


「壇上に立った一条零、いつものようにオーラが半端ないんだけど、口を開いたらもっとヤバかった。

『私は、けんたろうさんの作った曲を歌いたい』って、Synaptic Driveのけんたろうを名指しでラブコールだ!

 もう会場は騒然。

 ネットも当然、大騒ぎだぜ!

 ちょっとコメント見てみようか」


【ネット民の反応】

「一条零がユーロビートとかマジ!?意外すぎるけど、あの歌姫なら絶対カッコよく歌いこなす!」

「一条零がユーロビートとか、脳が処理しきれんwでも絶対神曲になる」

「歌姫がここまで言うって、けんたろうの才能は本物中の本物なんだな…」

「ユーロビートってMidnight Verdictのイメージだったけど、一条零が殴り込みか! 面白くなってきた!」


 YouTuber:セブ・直山

「だよな!

 みんなパニックだよな!

 でも、一番の爆弾は最後の一言だ。

 彼女はこう締めくくった。『少しだけでいい 伝えたい』……おいおいおい!」

「これ、けんたろうが渋谷で歌った『あなたは知らない』の歌詞そのまんまだろ!

 ただの楽曲提供依頼じゃない。

 彼の曲の『本質』を理解してるっていう、強烈なマウントでありアピールだ!

 これはもう、音楽を通した公開告白であり、ライバルへの『宣戦布告』だぜ!」


【ネット民の反応】

「最後の『少しだけでいい 伝えたい』で鳥肌立った! 『あなたは知らない』の歌詞じゃん!」

「完全にけんたろうへのメッセージだろ…。あんな切ない歌詞を引用するとか、どんだけゾッコンなんだよ」

「これはもう宣戦布告。ユーロビートの女王、Midnight Verdictは黙ってないぞ!」

「弱小レーベルのけんたろうvs国民的歌姫の一条零…この構図、アツすぎる!」

「一条零の参戦で、日本のユーロビートシーン、一気に覇権争いだな。目が離せねぇ!」


 Youtuber:セブ・直山

「ってことなんだよ!

 歌姫からの、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも情熱的な宣戦布告。

 これを受けて、けんたろうとSynaptic Driveはどう動くのか。

 そして、ユーロビート界の女王・Midnight Verdictの反応は!?

 日本の音楽シーンに、とんでもない嵐が来てるのは間違いない!」


「いやー、歴史の目撃者になっちまった気分だわ!

 続報が出次第、速攻で動画にするから、チャンネル登録と高評価、よろしくな!

 それじゃ、また!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ