vol.23 歌姫、聖域から静かに降りる
数日後、そのニュースは、雷鳴のように音楽業界を切り裂いた。
大手レーベル、エンペラー・レコードからの公式発表。
一条零が、新曲をリリースする。
それだけなら、いつものニュースだ。
だが問題は、そのジャンルだった。
ユーロビート。
彼女がこれまで、一度として足を踏み入れたことのない領域。
その言葉が発表資料に載っているというだけで、音楽業界には大きな衝撃が走った。
一条零が、ユーロビートを歌う。
それだけで前代未聞なのに、そのタイミングが、Synaptic Driveのブレイクとぴたりと重なっていることを、誰もが意識せずにはいられなかった。
♪ ♪ ♪
緊急記者会見の会場は、酸素が薄くなるほどの熱気に包まれていた。
無数のフラッシュが焚かれ、白い閃光が波のように押し寄せては引いていく。
その光の中から、一条零が現れた。
黒のシンプルなドレス。装飾らしい装飾は何もない。
だからこそ、彼女の存在そのものが、否応なく浮かび上がってしまう。
彼女がマイクの前に立った瞬間、会場の空気が凍りつき、物理的な重さを持って沈殿する。
威圧ではない。
ただ圧倒的に「格」が違う生物を前にした時、人は本能的に呼吸を忘れるのだ。
多くのメディアが詰めかける中、その壇上に立つ彼女の姿には、気取った華やかさも、特別な威圧感もなかった。
ただ「そこにいる」だけ。
それだけで場内の空気が張り詰めていく。
彼女の「静けさそのもの」が、空間ごと支配する。
シャッター音が止む。
咳払いひとつ許されない、真空のような静寂。
零は一度だけまぶたを伏せ、ゆっくりと開いた。
その瞳は、眼前の記者たちを通り越し、遥か彼方の星を見ているように澄み渡っている。
会場を一巡し、はっきりと言葉を紡ぐ。
「私は、けんたろうさんの作った曲を歌いたい。
どんな形であれ、彼が認めてくれるまで、私は絶対に諦めません」
低く、澄んだアルトの声が、マイクを通して会場の四隅まで浸透する。
どよめきが起きかけるが、彼女の視線がそれを制した。
挑発とも受け取れる宣言。
だが、その目には、侮りも虚勢も一切なかった。
それは懇願でもなければ、単なるオファーでもない。
敬意と情熱、そして誓い。
運命の決定事項を告げる、予言者の響き。
「彼らのユーロビートのスタイルで歌います。
私の歌声で、彼らの考えを変えてみせます」
彼女の表情は、どこか挑むような、そして自信に満ちたものだった。
それは、けんたろうの音楽への純粋な敬意と、自身の歌声への絶対的な自信の表れだった。
「私のもてるすべてを、彼に捧げます」
そう言い切った一条零は、最後に、会場のメディアのフラッシュを浴びながら、静かに、しかし切々と、あるフレーズを口にした。
「けんたろうさんに……『少しだけでいい 伝えたい』」
その瞬間、世界が止まった。
自宅のテレビの前で、けいとは凍りついた。
あやはスマホを握りしめ、言葉を失った。
そのフレーズ。
渋谷の交差点でけんたろうが血を吐くように歌った、Synaptic Driveのソロ曲『あなたは知らない』の一節。
一条零は、けんたろうの歌に込められた、孤独と届かない愛の痛みを、完全に理解しているということなのか。
これは、単なる新曲の発表ではない。
プロデューサー・けんたろうへの、そしてユーロビートの女王・Midnight Verdictへの、歌姫からの明確な「宣戦布告」だった。
会場が息を呑み、誰もがその場に釘付けとなった。
一条零はしばし沈黙し、ゆっくりとマイクを置く。
深々と行われる一礼。
その所作は、祈りにも誓いにも見えた。
顔を上げる。
揺るぎない瞳が、新しい時代の夜明けを告げるようであった。
【衝撃】歌姫・一条零、宣戦布告!?記者会見がヤバすぎた件
YouTuber:セブ・直山
「どうも、セブ・直山です!
みんな、今日のニュース見たか!?
マジで音楽業界がひっくり返るような、とんでもない発表があったんだよ!」
「そう、我らが歌姫・一条零!
なんとあの一条零が、新曲をリリースするって発表したんだ!
しかも、そのジャンルが……まさかの『ユーロビート』!
天上の歌姫が地上戦に降りてきただけでも事件なのに、話はここで終わらない。
記者会見での彼女の発言が、マジでヤバかったんだよ!」
「壇上に立った一条零、いつものようにオーラが半端ないんだけど、口を開いたらもっとヤバかった。
『私は、けんたろうさんの作った曲を歌いたい』って、Synaptic Driveのけんたろうを名指しでラブコールだ!
もう会場は騒然。
ネットも当然、大騒ぎだぜ!
ちょっとコメント見てみようか」
【ネット民の反応】
「一条零がユーロビートとかマジ!?意外すぎるけど、あの歌姫なら絶対カッコよく歌いこなす!」
「一条零がユーロビートとか、脳が処理しきれんwでも絶対神曲になる」
「歌姫がここまで言うって、けんたろうの才能は本物中の本物なんだな…」
「ユーロビートってMidnight Verdictのイメージだったけど、一条零が殴り込みか! 面白くなってきた!」
YouTuber:セブ・直山
「だよな!
みんなパニックだよな!
でも、一番の爆弾は最後の一言だ。
彼女はこう締めくくった。『少しだけでいい 伝えたい』……おいおいおい!」
「これ、けんたろうが渋谷で歌った『あなたは知らない』の歌詞そのまんまだろ!
ただの楽曲提供依頼じゃない。
彼の曲の『本質』を理解してるっていう、強烈なマウントでありアピールだ!
これはもう、音楽を通した公開告白であり、ライバルへの『宣戦布告』だぜ!」
【ネット民の反応】
「最後の『少しだけでいい 伝えたい』で鳥肌立った! 『あなたは知らない』の歌詞じゃん!」
「完全にけんたろうへのメッセージだろ…。あんな切ない歌詞を引用するとか、どんだけゾッコンなんだよ」
「これはもう宣戦布告。ユーロビートの女王、Midnight Verdictは黙ってないぞ!」
「弱小レーベルのけんたろうvs国民的歌姫の一条零…この構図、アツすぎる!」
「一条零の参戦で、日本のユーロビートシーン、一気に覇権争いだな。目が離せねぇ!」
Youtuber:セブ・直山
「ってことなんだよ!
歌姫からの、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも情熱的な宣戦布告。
これを受けて、けんたろうとSynaptic Driveはどう動くのか。
そして、ユーロビート界の女王・Midnight Verdictの反応は!?
日本の音楽シーンに、とんでもない嵐が来てるのは間違いない!」
「いやー、歴史の目撃者になっちまった気分だわ!
続報が出次第、速攻で動画にするから、チャンネル登録と高評価、よろしくな!
それじゃ、また!」




