vol.21 届かない想いの慟哭
その夜、Midnight Verdictのあやは、自宅で一人、テレビのニュース番組を見ていた。
画面の向こう、ニュース番組のセットの中央に、ゆりこアナがいる。
ノイズだらけの世の中なんて関係ないと言わんばかりの、完璧な美貌。
彼女の落ち着いた声が、今日の出来事を淡々と読み上げる。
(ああ、ゆりこアナって美人だな。
クールで知的なところなんか、けいとといい勝負だな……)
あやは、そんな他愛もないことを考えながら、ぼんやりとニュースを見ていた。
しかし、次の瞬間———
「……本日、渋谷のスクランブル交差点で突如として行われた、Synaptic Driveのゲリラライブは、多くの若者を熱狂させました」
「はあああ!?」
あやは、思わず声を上げた。
まさか、ゲリラライブを敢行したなんて。
ソファの背にもたれていた身体を前に倒し、テレビに顔を近づける。
映し出されたのは、視聴者がスマホで撮ったような縦長のフレーム。
手ブレで小刻みに揺れる画角。
歓声が割れて、その歪みの奥で、けんたろうの声だけが妙に真っ直ぐだった。
粗い画質。
割れた音。
熱だけはやたらと鮮明。
けんたろうの指が鍵盤を叩き、ユージがステージ上で暴れ回る。
けんたろうのソロ曲『あなたは知らない』が流れると、あやは言葉を失った。
(あのけんたろうちゃんが……!)
やわらかく笑っていたあの子が。
血を流すように、激しく、切なく歌っている。
むき出しの感情が、画面越しにも伝わってきて、あやの胸を容赦なく締め付ける。
あやは、すぐにけいとに連絡しようとスマホを手に取った。
だが、指が止まる。
この歌を、けいとはどういう気持ちで聴いているだろう。
そう思うと、かける言葉が見つからなかった。
♪ ♪ ♪
けいともまた、一人でテレビを見ていた。
Synaptic Driveのニュースに、ぴくっと体が反応する。
すぐにリモコンに手を伸ばし、音量を上げる。
食い入るように見つめる先、ザラついた映像の中で、見慣れたシルエットが叫んでいた。
けんたろうのシルエットが、細い肩を震わせながら、必死にキーボードを叩く。
影がマイクにすがりつくように歌う。
歌詞がけいとの心の奥を掴んでくる。
【あなたは知らない 僕が泣いているのを】
【あなたを思う心 少しだけで良い伝えたい】
けんたろうの魂の叫びが、荒い音質を突き破って、けいとの心に突き刺さる。
深く。
容赦なく。
孤独。
会えない寂しさ。
自分への純粋な愛。
先日、自宅を飛び出していったけんたろうの姿が、鮮明に脳裏によみがえった。
あの時、何も言えずにうつむく彼の背中に、自分はどんな言葉を投げつけただろうか。
彼があんなにも悲しんでいたのは、自分のせいだったのだと。
その歌声は、けいとの心の中に、けんたろうを映す。
そして、その愛が伝わらないという、けんたろうの悲しみが、彼女自身の胸をも深くえぐる。
『あなたは知らない』
そうか、あれは彼の孤独。
会えない寂しさ。
そして、私に向けられたあまりにも純粋な愛だったんだ。
どうして、気づいてあげられなかったんだろう。
画面の中で、けんたろうの影がマイクにすがりついている。
どうして、もっと優しくできなかったんだろう。
彼のあの悲しい瞳の理由が、すべて自分だったなんて。
テレビの喧騒だけが響く部屋。
静かに、静かに……けいとは、膝から崩れ落ちた。
床に座り込み、両手で顔を覆う。
声も出さずに泣き崩れた。
今まで、クールな仮面の下に隠してきた感情が、一気にあふれ出す。
けんたろうの歌。
けんたろうの慟哭。
彼女の心の奥底で触れた。
けいとの心に広がる、悲しみの波紋。
深い、深い悲しみの波紋。
けいとは今夜、彼の本当の心に、ようやく触れた。
こんなにも遠く離れてしまってから、ようやく。




