vol.135 伝染する不安
けんたろうの異変は、音もなく、しかし確実に、恋人の心を蝕んでいた。
連絡の減少。
会えない日々。
その理由は、何も知らされない。
Midnight Verdictのリーダー、けいとの心は、深い不安の淵へと突き落とされていた。
その変化は、メンバーたちには隠しきれるものではなかった。
「ねぇ、けいと。最近、元気なくない?
なんか、上の空って感じだし」
練習後、休憩室のソファに深く沈むけいとに、あやが心配そうに声をかけた。
クールな彼女の貌には、隠しきれない憂いが滲んでいる。
さやかも
「練習中も、いつもより集中できてないみたいだし…何かあったの?」
と優しく続ける。
メンバーたちの視線が、痛いほど突き刺さる。
何か言わなきゃ。
でも、喉にひっかかった小骨みたいに、言葉が出てこない。
けんたろうの異変を、そしてそれが自分たちの関係に影を落としていることを、どう説明すればいいのか分からなかった。
その時だった。
「もしかして、けんたろうちゃん絡み?」
小悪魔系のひなたが、悪戯っぽく、しかし鋭く核心を突いた。
「最近、あの子もなんか変だって話じゃん。
メディアへの露出も減ったっていうし。タイミング、合いすぎ」
こはるも
「そうだねぇ。
なんだか、けんたろうちゃん、ふわふわしてないっていうか、しゅんとしてる感じだもんねぇ」
と天然ながらも的を射る。
皆が言葉を探す。
ただ一人、黙ってけいとを見つめていたかおりが、静かに口を開いた。
その鋭い視線は、すべてを見透かしているようだった。
「――First Love」
その一言に、けいとの肩がビクリと震えた。
メンバーたちは、かおりの言葉の真意を測りかねていたが、けいとだけは、その意味を明確に理解していた。
あの曲。
すべての始まりであり、そして今、終わりの予兆となっているかもしれない、あの呪いのような旋律。
ふとした瞬間に、頭の中でそのメロディが勝手に再生されてしまう。
会えない日々が、雨の日の喫茶店、けんたろうが飛び出していった夜を、思い出してしまう。
彼女の心に澱のように溜まっていた不安をかき混ぜ、黒い疑惑の渦を巻き起こしたのだ。
けいとは、絞り出すような声で呟いた。
「けんたろうちゃんが、あんなふうになっちゃうなんて……
どうしちゃったんだろう……」
「急に売れちゃって疲れてるんじゃない?」
あやは慰めようとするが、けいとの心には届かない。
彼女は直感していた。
これは単なる疲労ではない、と。




