vol.133 秘密の旋律
「……なあ、お前、さっきのアレ…
まさか廊下でゆりこアナと再会してから閃いたのか?」
不意に投じられたユージの問いに、けんたろうのまぶたが揺れる。
図星を突かれたけんたろうは、逃れるようにソファに身を沈めた。
初恋の相手への変わらぬ想い。
楽曲として昇華された達成感。
神聖な領域を見られた羞恥心。
複雑な感情が渦を巻き、彼の顔を赤く染めた。
返す言葉が見つからない。
けんたろうは、視線を宙に逃がした。
その反応だけで、ユージにはすべてが分かった。
「……やっぱりな」
ユージは確信したようにニヤリと笑った。
「……そうなんだ」
綾音がぽつりと呟く。
彼女だけは、けいととの秘密に触れながらも、その手前でことばを噛みしめている。
ユージは意地悪そうに笑う。
「で、どうするんだ、これ。
今の曲――全部バレるぞ?」
けんたろうは、困った顔で肩をすくめた。
「あの時、歌わずにはいられなかったんだよ」
三人の間に、優しい慣れ親しんだ沈黙が落ちる。
廊下の向こうから聞こえてくるスタッフの声、テレビ局の夜のざわめき。
綾音が、手元のタブレットを覗き込むと、画面の向こうで世界はすでに騒いでいる。
「ほら……やっぱり。
けんたろうの恋、また話題って。
けいとさんの名前、いっぱい出てる」
画面に映し出されたSNSのタイムラインは、「けんたろうとけいと」を巡る憶測で埋め尽くされていた。
ユージは苦い笑みを浮かべて肩をすくめる。
「慣れたけどな、これも。
けいとちゃんには俺から適当にごまかしておくから大丈夫だろ」
その隙間に、けんたろうはふ、と空気を吸い込む――
胸の奥、誰にも気づかれぬ初恋が、いま音楽に化けたことを、誰にも説明するつもりはなかった。
楽屋の外からは、まだ熱気の冷めやらぬ喧騒が聞こえてくる。
その中で、彼らはそれぞれの想いを抱えていた。
この「First Love」という秘密の旋律が、自分たちを、そして隠された恋人たちの関係を、どこへ導いていくのか。
嵐の余韻は消えない。
まだ誰にも、物語の続きは見えていない。




