vol.132 聴こえてしまったから
テレビ生放送が終わった。
でも、まだ心臓がドクドクいってる。
生放送って、やっぱり怖い。
Synaptic Driveの楽屋は、興奮と混沌が溶け合う不思議な静けさに包まれていた。
スタッフたちが機材を運び出すその傍ら、けんたろうは、肩までの透明な熱を吐き出すように、大きく息をついた。
ソファに沈み込む彼へ、ユージが肩を叩いて寄りかかる。
「……おまえなあ」
ユージの声には、呆れと敬意がないまぜになっている。
「マジでぶっ飛んでるな!生放送でアドリブなんて――なぁ?」
「心臓、止まるかと思ったぜ。生であんなことやる奴、後にも先にもお前だけだ」
けんたろうは少しだけ口角を上げ、天井を仰いだ。
「だって、聴こえちゃったんだもん。すぐに形にしないと、消えちゃう気がして」
そのあまりに純粋な言葉に、ユージは静かに笑った。
それは決して咎めるものではなく、どうしようもなく愛おしいものに向けられる、温かなため息だった。
「……うん、なんか、止まんないんだ。こういう時」
やがて、楽屋のドアが乾いた音を立てて開く。
マネージャーの綾音が、息を切らして駆け込んできた。
「けんたろうくん、ユージくん、お疲れさまですっ!」
その声が部屋の空気を塗り替える。
綾音は、けんたろうの真正面に名札を押さえたまま、すっと膝を畳む。
そして、まじまじと顔を覗き込む。
「……すごかったですよ、本当に。
局の廊下、みんな驚いちゃって。ネットも……」
言葉は途中で止まる。
不意に胸の高鳴りを思い出した、そんな顔をしている。
ユージが隣から無言で綾音の頭をくしゃっと撫でた。
彼女は、少し照れたように目尻をすぼめる。
しばし三人は、誰からともなく笑い、それぞれの静かな高揚の中で、一つの夜が終わろうとしていた。
「編成さん、立ち上がってましたよ!
あのサビ、反則ですって!
あの曲、感動しました!」
その言葉に、ユージはふと何かを思い出した。
悪戯っぽく眉をひそめ、けんたろうの顔を覗き込む。
「なあ、けんたろう。さっきの曲……もしかして、さ」
「廊下で、ゆりこアナと会ったからか?」




