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vol.131 それぞれの夜

 テレビモニターに映し出される、鬼気迫るけんたろうの姿。

 Midnight Verdictのメンバーたちが集うリビングの空気は、熱狂と困惑に包まれていた。


「けんたろうちゃん、一体どうしたの…?」


 けいとは、彼の突然の行動に驚きつつも、その歌声に込められた感情の激しさに、何かを感じ取っていた。


「この歌詞…私じゃない…?」


 彼女はどこか不安げな表情で呟き、無意識に自分の胸元をぎゅっと握りしめた。

 恋人だからこそ、その歌が自分ではない誰かに向けられているという確信が、胸を締め付ける。

 画面の中のけんたろうが、どんどん遠い存在になっていくような、得体のしれない恐怖が彼女を襲っていた。


「けんたろうちゃん、やるじゃん! めっちゃカッコいい!」

 あやは興奮気味に声を上げる。

「ユージもナイスアシスト! 二人の絆って本当に最高!」


「けんたろうちゃんの歌、すごく心に響くね。何かあったのかな…」

 さやかは、その歌声の奥にある純粋な感情に心を揺さぶられる。


 かおりは無言でモニターを見つめていたが、その瞳の奥には冷ややかな光が宿っていた。

「First Loveか…」

 誰にも聞こえない、小さな呟き。

(一番きれいな思い出は、一番残酷な呪いにもなるのにね…)

 彼女はふっと目を伏せ、まるで過去の自分を憐れむかのように、静かに微笑んだ。


 ひなたは

「わー! なんかいつもと違う! 熱いねー!」

 とはしゃぐ。


 その隣で、こはるだけはしゃぎもせず、テレビのスピーカーに耳を澄ますように、じっと画面を見つめていた。

 そして、不意に顔をしかめて、ぽつりと呟く。


「…今日の音、黒いね」


「え? 黒いって? 曲調のこと?」

 とひなたが聞き返す。


「ううん。音、そのものが。…いつもより、ずっと黒い」

 こはるは、リビングの喧騒には不釣り合いなほど静かな声で、そう言った。

 その言葉の意味を、今は誰も理解できなかった。


 ♪ ♪ ♪


 その頃、Dream Jumpsの楽屋でも、メンバーたちが食い入るようにスマホの画面を見ていた。


「きゃー! けんたろうくん、すごーい!」

 センターのめぐみは、無邪気に歓声を上げる。

「もしかして、これって私のこと歌ってるのかな?」


「いや、ないでしょ」

 すらりとした長身のりおが、クールに一刀両断する。

「歌詞、ちゃんと聞いてた?『年上』って言ってる」


「でもでもー、めぐみんがそう思いたくなる気持ち、わかるー!」

 小柄なゆずが、くりっとした瞳でフォローを入れる。


 おっとりした雰囲気のももが、ふんわりと微笑んだ。

「ふふ、誰のことでも、素敵な曲ね」


「そうですね」

 最年少ながらしっかり者のあいが、冷静にまとめる。

「でも、歌詞の内容からして、私たちではない、もっとパーソナルな相手に向けた歌だと思います」


「えー、ちぇー」

 めぐみは唇を尖らせたが、その表情はどこか楽しそうだった。


 ♪ ♪ ♪


 この生放送を見ていた一条零もまた、真剣な眼差しを画面に向けていた。

 曲が終わると、彼女の唇から、普段のミステリアスな雰囲気からは想像もつかない、可愛らしいつぶやきが漏れた。


「あ~あ、けんたろうくん…」


 その声には、彼の才能への深い共感と、そして、彼が想う「First Love」の相手への、ほんのわずかな嫉妬が混じり合っていた。


「…この歌詞の彼女が、私だといいなぁ」


 彼女は小さくため息をつき、再び一条零の表情に戻った。

 しかし、胸の奥では新たな想いが芽生え始めていた。



 誰もが自分や身近な誰かが「First Love」なのでは、と願い、ざわめいていた。

 その一方で、けんたろうの心の奥――ゆりこアナの存在にはまだ、誰も気づいてない。


 本当の想いは、まだ秘密のまま。

 そして、その才能が払う本当の代償もまた、物語の余白にそっと隠されていた。

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