vol.124 残像
きらびやかなライトが降り注ぐ、テレビのトーク番組のセット。
テレビ局という空間の全てが、今のけんたろうにとっては過剰な刺激だった。
観客席からは、今最もアツいユーロビートユニット、Synaptic Driveの登場を待ち望む熱気が渦巻いていた。
まるで自分だけが、一枚の薄い膜の向こう側から、この現実離れした光景を眺めているような、奇妙な浮遊感。
(ゆりこさん……)
大学生の、少しあどけない笑顔。
洗練された大人の女性としての微笑み。
二人のゆりこが重なる。
熱狂の中心。
けんたろうの心は、この華やかな場所にはいない。
そして、甘い記憶を振り払おうとするたび、今度はけいとの真剣な瞳が脳裏をよぎる。
自分を信じ、愛してくれる彼女への罪悪感。
(僕は、けいとさんを愛してるはずなのに……)
彼の脳裏には、先ほど予期せぬ再会を果たした初恋の人の残像が、まるで陽炎のように揺らめいていた。
彼女の笑顔、優しい声、そして「けんたろうちゃん」と呼ばれた時の胸の高鳴り。
そのすべてが、彼の心をどこかへ置いてきてしまった。
(ダメだ、考えちゃ…)
けんたろうは、透ける素材の大きなカーテンの向こうで、自分の胸を押さえた。
心臓が、いつもと違うリズムで鼓動している。
・・
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―――――雨の日の喫茶店―――――
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・・
それは恋の高揚なのか、それとも罪悪感による動悸なのか、自分でもわからなかった。
頭では理解している。
けいとという、かけがえのない恋人がいる。
・・
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―――――クリームソーダ―――――
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・・
彼女への想いは偽りではない。
それなのに、なぜゆりこさんの姿が脳裏から離れないのか。
・・・
・・
・
「私たちはプロになる。
けんたろうちゃんは、まだ普通の高校生。
住む世界が、変わるの」
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・・
・・・
突如、けいとに突き放されたあの雨の日の記憶が、鮮烈にフラッシュバックする。
手の届かない場所へ行ってしまう、という絶望。
「住む世界が違う」という、冷たい宣告。
ゆりこもまた、今や自分とは「住む世界が違う」場所にいる。
追いかけても追いかけても、大切な人はいつも自分を置いて遠くへ行ってしまうのではないか。
得体のしれない恐怖が、足元から這い上がってくる。




