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vol.122 残響

「まるで姉弟みたいだったってことか。

 でも、そこからどうして疎遠になっちまったんだ?」


 ユージの問いに、けんたろうの表情にわずかに陰りが差した。

 楽しかった思い出を語っていた時の光がすっと消え、声のトーンが一段低くなる。


「ゆりこさんは大学三年生だったから、就職活動で忙しくなって…。

 僕も、大事な時期の邪魔をしちゃいけないって思って、連絡するのをためらうようになったんだ。

 だんだん連絡も取れなくなって、いつの間にか疎遠に…」


 その声には、寂しさが滲む。

 それは、ただ会えなくなったことへの悲しみだけではない。

 自ら一歩を踏み出せなかったことへの、消せない後悔の響き。


 そして、けんたろうは、決定的な一言を口にする。


「ゆりこさんと会えなくなった頃、僕はゆりこさんに誘われていたサッカーで、けいとさんと出会ったから…」


「「!」」


 ユージと綾音はハッと息を呑む。


「待て…待てよ」


 ユージが混乱したように自分のこめかみを押さえた。


「整理するぞ…

 つまり、お前がゆりこアナと会えなくなったから、そのタイミングでけいとちゃんと出会った…?

 じゃあ、今の俺たちがいるのは、お前の初恋が終わったおかげ、ってことになんのかよ…」


 その言葉の持つ、あまりにも皮肉な響き。

 運命の歯車が噛み合う瞬間に、二人は鳥肌が立つのを感じた。


「ゆりこさんに、感謝の気持ちを伝えることもできず、今まで来たからね」


 けんたろうは再びうつむく。


「僕の音楽の原点は、間違いなく彼女がくれた知的好奇心と…あの時間だった。

 なのに、一番伝えなきゃいけない人に、何も言えてないんだ」


 その感謝を伝えられなかった後悔が、ずっとくすぶっていたのだ。



「だからね、これからどうしようか悩むよ」


「会いたい。

 でも、僕は今、けいとさんを愛してる。

 今さらどんな顔をして会えばいいのか…。

 それに、今の僕を、彼女はどう思うんだろうって…少し、怖いんだ」



 ぽつりと漏らされた言葉。

 それは、再会の喜びと同時に、彼の心を大きく揺さぶる恐怖にも似た複雑な感情の表れだった。


 綾音が、彼の震える声に寄り添うように、静かに口を開いた。


「感謝と、後悔と、少しの怖さと…。

 色々な気持ちが混ざって、どうしたらいいか分からなくなっちゃうよね」


 その言葉に、けんたろうはこくりとうなずく。


 けいと、めぐみ、一条零。

 そして、全ての始まりである初恋の相手、ゆりこ。


 ユージは、弟分の横顔を見つめながら心の中で毒づいた。

(こいつの頭の中は、今、どんなメロディが鳴ってやがるんだ。

 誰にも想像がつかねぇ、とんでもなく複雑で、どうしようもなく切ないメロディなんだろうな…)


 この再会が、けんたろうの音楽と未来に何をもたらすのか。

 それはまだ、誰にも分からなかった。

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