vol.120 ゆりこ
「Synaptic Driveのけんたろうって…けんたろうちゃんだったのね?」
ゆりこアナの言葉に、綾音は息を呑んだ。
「ゆりこアナは、ウチのけんたろうをご存じで!?」
興奮気味に尋ねる綾音に、ゆりこアナは穏やかな笑みで答える。
「ええ。
私が大学生のころね、半年くらいかな…
仲の良い年下の男の子がいたの。
私を慕ってくれて、本当に可愛かった…」
その言葉に、けんたろうはそっと目を伏せる。
あの頃の純粋な憧れと尊敬の念が、鮮やかに蘇る。
けんたろうにとって、彼女はただの年上女性ではなかった。
「…今ではスーパープロデューサーなのね」
ゆりこアナは、けんたろうを誇らしげに、そして少し寂しげな瞳で見つめる。
時間の流れと互いの変化を噛みしめるような、複雑な表情だった。
「!!!」
ユージと綾音は、再び衝撃を受ける。
けんたろうの過去に、これほどドラマチックな出会いがあったとは。
ふと、ゆりこアナは腕時計に目をやり、名残惜しそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、今はあまりゆっくりできないわ。
でも…また会えるかしら?
その時、ゆっくりお話しましょ」
そう言うと、ゆりこアナは、けんたろうの頭を優しく撫で、廊下の喧騒の中へと去っていく。
その輝くような後ろ姿を、けんたろうは心を奪われたように見送っていた。
頭に残る優しい感触と、甘い香り。
再会の喜びと、去っていくゆりこへの切なさ。
会えなかった空白の時間、再会への期待。
押し寄せる感情の波が、けんたろうの胸を締め付ける。
隣で顔を見合わせるユージと綾音。
その場の空気は、静かで濃密。
去っていった彼女の甘い香りがまだ漂っているかのように。
けんたろうは、ゆりこの残像をずっと見つめていた。




