vol.119 甘く切なく
テレビ局の廊下で、思いがけない再会を果たしたけんたろうとゆりこアナ。
まるで時が止まったかのような空間で、二人の視線が絡み合う。
「…けんたろうちゃん?」
ゆりこアナが囁くように紡いだその名は、時間を一瞬で飛び越えた。
あの頃の無邪気な少年は、今や音楽業界を席巻する天才作曲家。
しかし、彼女の目に映る彼は、変わらぬ愛しさを宿した「けんたろうちゃん」のままだった。
けんたろうは、こくりと頷くことしかできない。
心臓が高鳴り、熱い感情が全身を駆け巡る。
彼の世界は完全に色づいていた。
「ゆりこさん…アナウンサーで活躍してるの、いつもかっこいいよ!」
けんたろうは、声を絞り出す。
テレビで見るたび、その知的な美しさとプロフェッショナルな姿に、どれほど胸を熱くしたことか。
「見ててくれてたの?」
ゆりこアナが優しく微笑むと、けんたろうは子供のように素直に頷いた。
彼の瞳は、もう彼女から逸らすことなどできなかった。
そんな二人の甘く懐かしい空気に、痺れを切らしたように口を挟んだのはユージだった。
「おいおいおいおい…」
ユージは、二人の間に漂う特別な雰囲気を敏感に察していた。
けんたろうの少年のような表情。
ゆりこアナの慈しむような眼差し。
全ての点が、一本の線で繋がっていく。
「もしかして、けんたろうくんと、お知り合い…なんですか?」
隣で呆然としていた綾音が、恐る恐る尋ねる。
すると、ゆりこアナは、綾音とユージに視線を移すと、確信を得たように微笑んだ。
「Synaptic Driveのけんたろうって…けんたろうちゃんだったのね?」
その言葉は、目の前の天才作曲家と、かつて自分が知っていた少年が、同一人物であることへの驚きと喜びを含んでいた。
けんたろうは、その問いに、照れくさそうに顔を赤らめながら、再び頷くのだった。




