vol.115 嵐の後で
Midnight Verdictの生放送が、まさかの強制終了という前代未聞の幕引きを迎えた夜。
ネットは未だ祭りの熱狂の渦中にあり、「CAKE」の歌詞とけいとの動揺、そしてこはるの「秘密爆弾」三連発は、これまで秘匿されてきた二人の関係を、もはや否定しようのない「公然の秘密」として世界中の好奇の目に晒していた。
♪ ♪ ♪
その夜、Synaptic Driveのオフィスでは、マネージャーの綾音とユージが緊急の戦略会議を開いていた。
「ユージくん、どうするのよこれ!?」
綾音は眉間に深い皺を寄せ、スマホを握りしめながら声を上げた。
「ネット、見た!?
もう大変なことになってるのよ!
これまでどんなに気をつけてきたと思ってんの!?
このままじゃ、けいとさんにも、Synaptic Driveにも…!」
そんな綾音の焦りとは対照的に、ユージはソファに深く身を沈め、天井を見上げながら豪快に笑い飛ばした。
「わっはっは! 綾音ちゃん、そんなにカリカリすんなって!」
「笑い事じゃないでしょ!
メロメロとか、そんな悠長なこと言ってる場合じゃ…!」
「まーまー。落ち着けって」
ユージはひらひらと手を振って綾音をなだめる。
「確かに大ごとだ。
だがな、俺は、これ、チャンスだと思ってるぜ?」
「チャンス…?」
ユージはニヤリと笑った。
「考えてみろよ。
これまで、けんたろうは『謎の天才作曲家』だった。
だが、今回の件で、一気に人間味が増したじゃねぇか。
しかも、あのMidnight Verdictの女王けいとを射止めた、ってなったらどうだ?
男としての格も、アーティストとしての物語性も、一気に跳ね上がる。」
ユージの言葉に、綾音はハッとしたように息を飲む。
「そろそろ、潮時かもしれねぇな。
あいつの『正体』を、世間に明かす時が。」
♪ ♪ ♪
一方、Midnight Verdictが所属する大手芸能事務所・シャイニーレコードでも、緊急の幹部会議が開かれていた。
「…ほう。面白いことになったな」
「確かに、一見すればスキャンダルだ。
だが、見方を変えれば、これほど注目を集めたことはない。
Midnight Verdictはクールなイメージだったが、今回の件で、彼女たちの人間的な魅力、特にけいとの可愛らしい一面が世に知れた。
ファンはむしろ喜んでいるではないか」
広報担当者が
「しかし、けんたろうさんとの関係が…」
と食い下がると、社長は深遠な笑みを浮かべた。
「秘密はな、時に、暴かれることでさらに輝くものだ。
我々の方針は変わらん。
Midnight Verdictの味方であり、守護者であり続ける。
彼女たちが安心して音楽に専念できるよう、全面的にバックアップしろ。
以上だ。」
♪ ♪ ♪
生放送を終えたMidnight Verdictのメンバーたちは、事務所から直帰を許可され、けいとの自宅に集まっていた。
リビングには、テーブルに置かれたケーキの残り香がまだ漂っている。
けいとは、ソファに深く沈み込み、まだ少し顔が赤い。
「もう…どうしようかと思ったわ…」
そんなけいとの隣に、あやがそっと座った。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
さやかが、その肩を優しくさする。
「きっと大丈夫だよ。事務所も、私たちの味方だって」
すると、かおりが、いつもの無口な表情で、しかし核心を突くように言った。
「…時間の問題だった。
遅かれ早かれ、ああなる運命だったのよ。」
かおりのストレートな一言に、けいとは顔を上げ、小さく頷いた。
ひなたが、いつもの元気いっぱいの調子で場を和ませる。
「そーだよ、けいと!
ていうか、けんたろうちゃんが、けいとのこと歌ってるって、マジで最高じゃん!
超エモいんですけど!」
ひなたの言葉に、けいとは再び顔を赤くした。
「ひなたっ!」
そして、こはるが、無邪気に首を傾げた。
「けいとちゃん、私、何か変なこと言っちゃった?」
メンバー全員が顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。
「こはるは、最高だよ!」
あやがこはるの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「…天使の悪魔ね」
かおりが珍しく微笑みながら呟いた。
けいとは、そんなメンバーたちの温かさに、張り詰めていた心が溶けていくのを感じた。
「…みんな、ありがとう…」
♪ ♪ ♪
同じ頃、僕は自分の部屋で、天井を見つめていた。
スマホの画面には、未だ「CAKE」を巡る騒動の記事が次々と更新されている。
けいとさんとの秘密の恋は、もう秘密ではない。
でも、それが悪いことなのだろうか。
外では、まだ嵐が吹き荒れている。Midnight Verdictの女王たちは、どんな嵐にも負けない確固たる絆を確認した。
そして僕もまた、隠れることをやめる時が来たのかもしれない。




