vol.114 女子会ミドヴァ⑩
こはるの「はい、CM!」という一言で、地獄絵図と化したスタジオは、強制的に静寂を取り戻した。
CMが流れる間、僕は生きた心地がしなかった。
テレビの向こうで、けいとさんは泣いているんじゃないだろうか。
僕がつくり、歌った曲のせいで、彼女を、彼女たちを、取り返しのつかない状況に追い込んでしまった…。
CM中のネット上は、まさに世紀末のような騒ぎだった。
僕が震える手で開いたザッツ小泉の配信画面では、彼が涙ながらに天を仰いでいた。
『皆さん! CMです!
まさかの強制CM!
しかし、このCM中に一体何が起こっているというのか!
スタジオは今、どうなっているのか!
息ができません!』
彼の背景には、視聴者の悲鳴のようなコメントが滝のように流れていく。
「え、マジで今何が起こってるの!?」
「CM長すぎ!早く続き見せろ!」
「MVメンバー、生きてるか? 息してるか!?」
「けいと様、もう顔見せられないだろwww」
もう一つ、別のチャンネルを開く。
熱い語り口で人気の音楽系Youtuber・セブ直山の配信だ。
彼は頭をかきむしりながら、マシンガンのように絶叫していた。
『なんだこれは!?
おい、一体何が起きてんだよ!
『CAKE』って言ったよな!?
こはるちゃん、爆弾すぎるだろ!
けいとさん、完全に崩壊してたじゃねえか!
けんたろうとの仲はどうなってんだ!?
あの曲は一体何なんだよ!?
わかんねえ!
何もわかんねえ!
だが、最高に面白いことだけは確かだ!』
彼らの言葉が、僕の不安と世間の興奮の大きさを物語っていた。
CMが明ける瞬間を、僕は祈るような気持ちで待ち望んでいた。
しかし、CMが明けてテレビ画面に映し出されたのは、スタジオの混乱した様子でもなければ、MC陣の必死のフォローでもなかった。
流れてきたのは、煌びやかな光と熱気に満ちた、Midnight Verdictの最新曲のミュージックビデオだった。
完璧な笑顔、クールなパフォーマンス。
数分前の崩壊が嘘のような、プロの姿。
そして、ミュージックビデオが終わると、画面には突然、
「本日の放送はここまで」
というテロップが表示され、そのままエンディングロールへと突入してしまったのだ。
「……え?」
僕は、呆然と画面を見つめるしかなかった。
逃げた?
いや、違う。
これは…プロとしての、最大の防御策なのかもしれない。
だが、僕たちの「秘密」は?
けいとさんの心は?
何一つ解決しないまま、ただ嵐だけが、僕らの周りで大きくなっていく。
この唐突すぎる幕引きに、ネット上は再び大爆発した。
ザッツ小泉は、もはや笑いながら泣いていた。
『強制終了!
まさかのMVで強制終了です!
これぞ伝説!
これぞ我らがMidnight Verdict!
嵐を呼び、そして嵐と共に去っていく!
あっぱれです!
あっぱれとしか言いようがありません!』
コメント欄は
「逃げたなwww」
「伝説の番組だわ」
「逆にプロの仕事」
といった賞賛(?)で溢れかえっている。
一方、セブ直山は椅子から立ち上がり、カメラに向かって吠えていた。
『はぁぁぁぁぁ!?
終わり!?
嘘だろ!?
なんで終わったんだよ!
おい、投げっぱなしジャーマンかよ!
『CAKE』の謎が深まっただけじゃねーか!
答え合わせしろよ、おい!
…だがな、だがな!
このモヤモヤ感、最高に面白いじゃねえか!
続きはWebで、ってか!?
やってくれるぜ、Midnight Verdict!』
視聴者たちは、番組が最も盛り上がった瞬間に強制的に幕を引かれたことに、大きな衝撃と、そして言いようのない興奮を覚えていた。
僕とけいとさんの、甘く秘められた恋の物語は、この「こはる爆弾」と「CAKE」旋風によって、さらに複雑な様相を呈し始める。
この生放送の「真相」が、いつ、どこで、どのような形で明かされるのか。
そして僕とけいとさんの秘密の恋は、この一件で一体どうなってしまうのか。
物語は、新たな局面へと突入する。




