vol.112 女子会ミドヴァ⑧
こはるちゃんの「恋はケーキ♪」という天然爆弾によって、一瞬にして凍りつきかけたスタジオ。
僕は家のテレビの前で冷や汗をかきながら見守っていた。
しかし、ゴリマッチョ岡田と桜木麗子の巧みなMC、そしてけいとさんをはじめとするメンバーのプロフェッショナルな対応で、なんとかトークは持ち直していた。
けいとさんは、先ほどの動揺を悟られないよう、優雅に、そして凛とした表情でショートケーキを口に運んでいる。
その姿はまさに女王そのものだった。
あやさんが明るく笑いながら話題を変えようとする。
「このケーキ、本当に美味しいですね!
スタジオのケーキって、いつもこんなに豪華なんですか?」
さやかさんも協力する。
「私たち、普段の女子会でもこんな風にケーキ食べてるんですよ」
ひなちゃんも空気を読んで、けいとさんから視線を外し、
「そうそう!いつもはもっと騒がしいかもしれませんね」
かおりさんも珍しく口を開く。
「...みんなで食べると、美味しいです」
MCの二人も状況を立て直そうと努力している。
「さあ、皆さんケーキの味はいかがですか?
いつもこんな風に女子会してるんですか?」
岡田が自然な笑顔で話を振る。
桜木も微笑んで続ける。
「本当に仲の良い皆さんですよね。
見ていてこちらも癒されます」
「さすがプロだな...」
僕は安堵のため息をついた。
このまま乗り切ってくれ…
そう祈っていた矢先だった。
スタジオの雰囲気が再び和やかさを取り戻しつつあった時、美味しそうにロールケーキを頬張っていたこはるちゃんが、突然、けいとさんに向かって屈託のない笑顔で言ったのだ。
「けいとちゃん、いつもみたいに無邪気にパクパクしてないね~♪」
僕は心臓がひねられた感覚がした。
こはるちゃん・・・それ、『CAKE』の歌詞そのままだよ!!
スタジオに、再び、いや、今度はそれまで以上の、絶対零度の沈黙が訪れた。
その瞬間、僕の目の前で、漫画のような光景が繰り広げられた。
あやさんは口からタルトを噴き出しそうになり、さやかさんはフォークをカシャン!とテーブルに叩きつけてしまう。
かおりさんは、普段のクールな表情が完全に崩壊し、目を見開いて硬直。
ひなちゃんは、叫び声を上げるどころか、顔を両手で覆い、肩をわなわなと震わせている。
そして、当のけいとさんは、手元にあったフォークを派手な音を立てて落とし、
「えっ…!? あ、あああ…!?」
と、顔面蒼白で完全に取り乱した!
普段の冷静沈着な女王の面影は、そこには微塵もなかった。
口をパクパクさせ、言葉が出てこない。
視線は泳ぎ、まるで悪い夢でも見ているかのようにオロオロしている。
まさにその時、まるで示し合わせたかのように、カメラがけいとさんの顔にズームアップした。
彼女の口元には、先ほど食べたショートケーキの白いクリームが、ちょこんとついていたのだ。
違う、違うんだ。
僕は頭を抱えた。それは僕だけが知っていればいい、けいとさんの姿なんだ。
それを、全国の視聴者の前で…!
―― 口にはクリーム女の子
僕の歌の歌詞が、現実の映像として、全国に流れてしまった。
守りたかった秘密が、一番無防備な形で暴かれていく。
僕には、テレビの電源を切ることすらできなかった。
♪ ♪ ♪
スマホ画面では、ザッツ小泉が椅子から転げ落ちんばかりの勢いで絶叫していた。
『核爆弾です!
皆さん、これは核です!
こはる様が第二の矢を放たれました!
しかも、ご覧ください!
けいと様のお口元にクリームが!
これは…歌詞と完全に一致!
奇跡か!?
必然か!?
今、我々は伝説の目撃者となりました!』
彼の配信画面は、もはやコメントで埋め尽くされている。
「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「『無邪気にパクパク』『口にはクリーム女の子』! 歌詞と全く同じじゃん!!!」
「けいと様、完全に動揺してる! 取り乱しすぎだろwwwww」
「MV全員ひっくり返ってるしwwwwwwwwwww」
「これはもう確定! 秘密の恋、生放送でバレた!」
「今日の放送、伝説になるぞこれ!」
視聴者は、もはや確信を得た。
これまでネットで囁かれてきた僕とけいとさんの関係性が、このこはるちゃんの二度目の爆弾と、けいとさんの動揺、そして決定的瞬間のカメラワークによって、真実味を帯びてしまったのだ。
僕は画面を見つめながら叫んだ。
「こはるちゃん・・・・・天然すぎるよぉぉぉ!!!!」
スタジオは騒然とし、ゴリマッチョ岡田が何とか状況を収めようとするが、もはや誰にも止められない。
僕たちの、甘く秘められた恋の物語は、今、思いがけない形で、そのベールを剥がされてしまったのだった。




