表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/215

vol.111 女子会ミドヴァ⑦

 テレビの生放送スタジオは、Midnight Verdictのメンバーが選んだケーキの甘い香りと、和やかな笑い声に包まれていた。


 あやさんがフルーツタルトを口に運び、

「んー!このフルーツ、めっちゃジューシー!

 私の推しケーキ、確定!」

 と満面の笑顔で叫んだ。


 さやかさんはチーズケーキをゆっくりと味わい、

「しっとりしてて、優しい甘さですね。

 すごく癒されます」

 とふわりと微笑む。


 ひなちゃんはガトーショコラを頬張りながら、

「うわー!チョコが濃厚!

 これ、ライブの前に食べたら絶対テンション上がるやつー!」

 と元気いっぱいに叫んだ。


 かおりさんはザッハトルテを黙々と食べ進め、その表情からは一切の感情が読み取れないが、一口一口を丁寧に味わっているのが見て取れた。


 そんな和やかなムードの中、愛らしいロールケーキを嬉しそうに頬張っていたこはるちゃんが、ふと幸せそうに目を細めた。

 そして、まるで心に浮かんだメロディを抑えきれないかのように、小さな声で、しかしはっきりと口ずさんでしまったのだ。



「恋はケーキ♪」



 こはるちゃんの天使のような歌声が、スタジオの空気に溶け込んだ。


「フフフフンッ♪」


 さらに、楽しそうに、少しだけ続きを鼻歌で歌い始める。


 その瞬間、スタジオの時間が止まったかのように感じられた。


 僕は家のテレビの前で飛び上がった。


「!!!...こはるちゃん!!!歌っちゃだめでしょ!!!」


 真っ先に反応したのは、歌詞の意味を熟知しているけいとさんだった。

 彼女はフォークで切り分けようとしていたショートケーキを危うく落としそうになり、

「ひぃっ!」

 と小さな悲鳴を上げた。

 顔色は青ざめ、目を見開いてオロオロしている。


 他のメンバーたちも、こはるさんの《やらかし》に気づき、一斉に固まった。


「こはるっ!?」

 あやさんが焦った声で呼ぶ。


「こはるちゃん!いま…!」

 さやかさんが口元に手を当てて驚愕の表情。


 ひなちゃんは顔を真っ青にして

「こはるぅぅぅぅぅ!!」

 と叫ぶ寸前で口を塞ぎ、かおりさんは普段絶対に見せないような、目を見開いた驚愕の表情でこはるさんを凝視していた。


 こはるちゃん自身も、自分の口から飛び出したメロディにハッと気づき、ロールケーキを握りしめたままフリーズ。その顔は真っ赤になっている。


 シン…と静まり返ったスタジオに、ゴリマッチョ岡田の声が響いた。

「こはるちゃん?今何か歌ってました?」


 桜木麗子も興味津々といった表情で見つめる。

「あら、可愛い鼻歌ね。

 その曲、もしかして新曲かしら?」


 けいとさんは、フォークをぎゅっと握りしめ、顔を青ざめさせたまま何とか言葉を絞り出した。

「い、いえっ!

 こはるが、た、ただの鼻歌です!

 き、気のせいです!」


 しかし、一度出てしまった言葉は、もう取り消せない。


 小泉の配信で緊迫した声が響く。

「これは...これは大変なことになりました!

 こはる様がSynaptic Driveの『CAKE』を歌ってましたよ!!

 皆さん、これは偶然ではありません!

 明らかに『恋はケーキ』の部分を歌われました!」


 コメント欄が爆発的に流れる。

『こはる爆弾きたあああああ!!!』

『完全に答え合わせじゃん』

『けいと様の顔色www』

『MVメンバー全員動揺してる』

『これガチでヤバくない?』

『生放送でこれは事故レベル』


「そして皆さん!注目していただきたいのは、メンバーの皆様の反応です!」

 小泉が興奮気味に解説を続ける。

「特にけいと様の動揺ぶり、これは明らかに何かを知っていらっしゃる証拠では!?」


『小泉さん解説ありがとう』

『やっぱりけいと様が鍵だな』

『こはるちゃん天然すぎるwww』

『シナドラとMV絶対関係あるでしょ』

『過去の女子会ミドヴァでも、こはるちゃんは「けんたろうちゃん」って言ってたぞ』


♪ ♪ ♪


 自宅でこの生放送を見ていた一条零は、こはるの鼻歌とその後の騒動を静かに見つめていた。

 けいとの動揺した表情を見て、全てを悟ったかのように小さく息を吸い込む。


「けんたろうくんは…本当に、面白い人ね…」


 その瞳の奥に、普段は見せない純粋な好奇心と、どこか切ないような感情が宿っていた。


♪ ♪ ♪


 生放送は続く。

 しかし、この「こはる爆弾」によって、Midnight VerdictとSynaptic Drive、そして僕とけいとさんの関係は、これまでの「秘密」というベールが、わずかに剥がれ落ちてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ