vol.111 女子会ミドヴァ⑦
テレビの生放送スタジオは、Midnight Verdictのメンバーが選んだケーキの甘い香りと、和やかな笑い声に包まれていた。
あやさんがフルーツタルトを口に運び、
「んー!このフルーツ、めっちゃジューシー!
私の推しケーキ、確定!」
と満面の笑顔で叫んだ。
さやかさんはチーズケーキをゆっくりと味わい、
「しっとりしてて、優しい甘さですね。
すごく癒されます」
とふわりと微笑む。
ひなちゃんはガトーショコラを頬張りながら、
「うわー!チョコが濃厚!
これ、ライブの前に食べたら絶対テンション上がるやつー!」
と元気いっぱいに叫んだ。
かおりさんはザッハトルテを黙々と食べ進め、その表情からは一切の感情が読み取れないが、一口一口を丁寧に味わっているのが見て取れた。
そんな和やかなムードの中、愛らしいロールケーキを嬉しそうに頬張っていたこはるちゃんが、ふと幸せそうに目を細めた。
そして、まるで心に浮かんだメロディを抑えきれないかのように、小さな声で、しかしはっきりと口ずさんでしまったのだ。
「恋はケーキ♪」
こはるちゃんの天使のような歌声が、スタジオの空気に溶け込んだ。
「フフフフンッ♪」
さらに、楽しそうに、少しだけ続きを鼻歌で歌い始める。
その瞬間、スタジオの時間が止まったかのように感じられた。
僕は家のテレビの前で飛び上がった。
「!!!...こはるちゃん!!!歌っちゃだめでしょ!!!」
真っ先に反応したのは、歌詞の意味を熟知しているけいとさんだった。
彼女はフォークで切り分けようとしていたショートケーキを危うく落としそうになり、
「ひぃっ!」
と小さな悲鳴を上げた。
顔色は青ざめ、目を見開いてオロオロしている。
他のメンバーたちも、こはるさんの《やらかし》に気づき、一斉に固まった。
「こはるっ!?」
あやさんが焦った声で呼ぶ。
「こはるちゃん!いま…!」
さやかさんが口元に手を当てて驚愕の表情。
ひなちゃんは顔を真っ青にして
「こはるぅぅぅぅぅ!!」
と叫ぶ寸前で口を塞ぎ、かおりさんは普段絶対に見せないような、目を見開いた驚愕の表情でこはるさんを凝視していた。
こはるちゃん自身も、自分の口から飛び出したメロディにハッと気づき、ロールケーキを握りしめたままフリーズ。その顔は真っ赤になっている。
シン…と静まり返ったスタジオに、ゴリマッチョ岡田の声が響いた。
「こはるちゃん?今何か歌ってました?」
桜木麗子も興味津々といった表情で見つめる。
「あら、可愛い鼻歌ね。
その曲、もしかして新曲かしら?」
けいとさんは、フォークをぎゅっと握りしめ、顔を青ざめさせたまま何とか言葉を絞り出した。
「い、いえっ!
こはるが、た、ただの鼻歌です!
き、気のせいです!」
しかし、一度出てしまった言葉は、もう取り消せない。
小泉の配信で緊迫した声が響く。
「これは...これは大変なことになりました!
こはる様がSynaptic Driveの『CAKE』を歌ってましたよ!!
皆さん、これは偶然ではありません!
明らかに『恋はケーキ』の部分を歌われました!」
コメント欄が爆発的に流れる。
『こはる爆弾きたあああああ!!!』
『完全に答え合わせじゃん』
『けいと様の顔色www』
『MVメンバー全員動揺してる』
『これガチでヤバくない?』
『生放送でこれは事故レベル』
「そして皆さん!注目していただきたいのは、メンバーの皆様の反応です!」
小泉が興奮気味に解説を続ける。
「特にけいと様の動揺ぶり、これは明らかに何かを知っていらっしゃる証拠では!?」
『小泉さん解説ありがとう』
『やっぱりけいと様が鍵だな』
『こはるちゃん天然すぎるwww』
『シナドラとMV絶対関係あるでしょ』
『過去の女子会ミドヴァでも、こはるちゃんは「けんたろうちゃん」って言ってたぞ』
♪ ♪ ♪
自宅でこの生放送を見ていた一条零は、こはるの鼻歌とその後の騒動を静かに見つめていた。
けいとの動揺した表情を見て、全てを悟ったかのように小さく息を吸い込む。
「けんたろうくんは…本当に、面白い人ね…」
その瞳の奥に、普段は見せない純粋な好奇心と、どこか切ないような感情が宿っていた。
♪ ♪ ♪
生放送は続く。
しかし、この「こはる爆弾」によって、Midnight VerdictとSynaptic Drive、そして僕とけいとさんの関係は、これまでの「秘密」というベールが、わずかに剥がれ落ちてしまったのだった。




