vol.105 甘い奇襲、CAKE大旋風
「CAKE」という異例のタイトルが発表されてから数日。
音楽業界もネットも、Synaptic Driveが次に何をしでかすのかと固唾をのんで見守っていた。
そして、ついにその時が来た。
Rogue Soundの公式サイトに、待ち望んだ楽曲がひっそりとアップロードされたのだ。
再生ボタンが押されると、静寂を打ち破るように、キラキラと輝くシンセサイザーの音が弾け飛んだ。
予想を遥かに超えるキュートなサウンドに、耳を疑うリスナーが続出する。
「え、これ本当にSynaptic Driveの曲!?」
誰もが、ユージのクールな歌声を想像した。
しかし、次の瞬間、その予想は甘いケーキのように崩れ去る。
流れてきたのは、ユージの低く魅力的な声ではなかった。
そこに響いたのは――「僕」の、つまりけんたろうの、少しあどけなくも透明感のあるハイトーンボイスだったのだ。
【僕をかわいいしか言わないあなた】
その歌い出しに、ネットは文字通り阿鼻叫喚の坩堝と化した。
「うわああああああああああああああああああ!!!」
「けんたろうが歌ってるーーーーーーーーーーーーー!!!」
「何これ、可愛すぎて無理…死んだ…」
「え、けんたろうってこんな声だったの!? ギャップ萌え半端ないんだけど!」 「あの渋谷のゲリラライブの時のボーカルか! やっぱ天才じゃん!」
これまで謎に包まれていた「けんたろう」が、こんなにも甘くストレートなラブソングで姿を現したことに、ファンは度肝を抜かれた。
クールで硬派なユーロビートを牽引してきたユニットが、その「顔なき天才」の手で、ここまで甘美な世界を描き出すとは、誰が想像できただろうか。
楽曲は、中毒性という名の甘い罠だった。
【お姉さんぶってつっぱって】
【ぼくをいじめるの】
続く歌詞は具体的で、聴く者の想像力を掻き立てる。
そしてサビに向かい、キラキラとしたシンセとビートに乗って、ストレートな愛のメッセージが押し寄せる。
【あなたはCAKEが好きだから】
【あなたの笑顔が見たいから】
【CAKEを食べさせたいの】
「何これ、もう頭の中で無限ループしてる!」
「中毒性がヤバい…一回聴いたら止まらない…」
気づけばリスナーの体はリズムを刻み、口元は緩みっぱなしだ。
感想と同時に、
「この歌詞の相手って誰? けんたろう、彼女いるの!?」
という考察も白熱し始める。
彼の正体と同様に、その恋の相手にも注目が集まり始めたのだ。
音楽メディアもこの「CAKE旋風」を大々的に報じた。
「Synaptic Drive、まさかの路線変更か!? 新曲『CAKE』でけんたろうがボーカル!」
「甘さMAXのユーロポップで音楽界に新風! けんたろうの魅力が炸裂!」
テレビでは音楽評論家・佐野美月が
「これは、単なる変化球ではない。
Synaptic Driveが持つ底知れない才能の片鱗であり、けんたろうというアーティストの多面性が完全に開花した瞬間です」
と熱弁し、多くの共感を呼んだ。
オフィスで、ユージは面白そうに笑っている。
綾音さんは興奮冷めやらぬ様子で僕の肩を叩いた。
「けんたろうくん、すごい反響です!
まさにケーキみたいに甘くて、でも一度食べたら止まらない…
そんな魅力が詰まってます!」
僕は少し照れながらも、この状況を楽しんでいた。
けいとさんをメロメロにしたいという一心で作った曲が、こんなにも多くの人の心を揺さぶっている。
それは不思議な喜びだった。
この甘い奇襲は、間違いなく音楽業界の勢力図を塗り替え、僕自身の未来に予測不能な展開をもたらすだろう。
そして――この曲を聴いたけいとさんが、一体どんな反応をするのか。
僕の胸は、期待と少しばかりの不安でいっぱいだった。




