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vol.104 静かな波紋

 音楽業界は、不動の王者・一条零を中心に、Midnight Verdictが追いかけ、さらにSynaptic Driveの登場でかつてない盛り上がりを見せていた。

 そこへ、アイドルグループのDream Jumpsも加わり、シーンはますます熱気を帯びていた。


 そんな中、Rogue SoundからSynaptic Driveの新曲リリースが静かに発表された。

 普段は淡々とリリース情報のみだが、今回はタイトルが明記されていた――


『CAKE』


 この一報が流れるや、業界もネットも大混乱。

「は? Synaptic Driveが『CAKE』?」

「ユージが『CAKE』とか歌うの?」

「全然違う雰囲気すぎない?」

 と驚きや戸惑いの声があふれた。

 彼らのクールなユーロビート路線からは想像もできない甘いタイトルに、ファンは困惑する一方、その予想外の変化が大きな話題と好奇心を呼び起こしていた。


 特に注目を集めたのは「誰が歌うのか?」という点だった。

「ユージ? それとも謎のけんたろう?」

 Synaptic Driveは。ユージと僕の二人組である。

 これまで表立ってボーカルを担当していたのはユージだけ。

 僕は裏方に徹し、年齢も正体も謎の存在だった。

 ただ、渋谷のゲリラライブで僕が歌ったソロ曲『あなたは知らない』が一部ファンの間で話題になったことがあり、その歌声を知る者たちからは期待と興奮の声も上がっていた。


「もしあの時のけんたろうが歌うなら、これは本当にヤバい」

「全人類がキュン死」

 といった盛り上がりに加え、音楽メディアも

「『CAKE』で新境地か」

「けんたろうがついにボーカル?」

 と大々的に報じていた。

 異例のタイトルに、この曲が新たなSynaptic Driveの顔になるのか、単なる話題作りなのか、真意を巡る憶測は尽きない。

 また「けんたろう」がボーカルを務める場合、それは一条零の宣戦布告に対する返答とも受け取られ、関心が一挙に集まった。


 けれど、僕とけいとさんの交際が秘密で、僕自身の正体も世間には知られていない。

 そのミステリアスさがまた騒動に拍車をかけていた。

 僕にはただ、けいとさんをメロメロにしたいというシンプルな思いがあっただけなのに、これほど大事になるとは予想していなかった。


「ふぅ…まさかこんなに騒ぎになるなんてね」

 Rogue Soundのオフィスで、綾音さんも

「けんたろうくんの歌声、もう一度聴きたい!」と興奮気味だ。ユージは「お前が歌うしかないんだよ」

 と笑う。

 確かに、この『CAKE』は僕が歌うことで本当の意味を持つ。

 けいとさんへの想いを、そのまま届けたい。


 世間の熱狂の中、僕の心にあるのは、ただ『CAKE』がけいとさんにどう届くか

 ――それだけだった。

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